MBA流クリニック経営

第1回コーチング:『よりよい医療現場づくりのヒント〜実践!臨床コーチング』
~患者との円滑な関係を実現し治療効果も高める「スキル」を知ろう~

偕行会リハビリテーション病院 院長
日本臨床コーチング研究会 副会長
田丸 司 氏

現場での医療者同士のチームマネジメントから病院運営まで幅広い場面で応用できる「臨床コーチング」ですが、今回は臨床の基本となる「患者とのコミュニケーションにおける臨床コーチングの活用例」をご紹介します。

本稿で学ぶポイント

  • 医師、患者双方にメリットをもたらす「臨床コーチング」とは
  • コーチングの「スキル」を用いたコミュニケーション方法

【ケース編】患者とのよくある会話例(患者例:食事制限が守れない糖尿病治療者への指導例)

医療機関に来る患者は信頼できる医師に、自分の希望を踏まえながら的確な治療を提供してもらいたいと考えています。患者と医師との信頼関係は一朝一夕に構築できるものではありませんが、コーチングに基づく会話で接すれば相手の希望や必要な治療がスムーズに把握できるでしょう。

早い段階で信頼関係を築くことで、その後の治療でもスムーズに情報を聞き出すことができ、治療効率や効果の向上が期待できます。万が一の見落としも減り、患者サービスも向上し、医師だけでなく患者にとっても大きなメリットとなります。そのためには、まず患者とのコミュニケーションを見直す必要があるでしょう。ここで、よくある会話の例を見てみましょう。

医師:
Aさん、今回の検査ではHbA1cが7.2とこれまでで一番上がってしまいました。
食事コントロールはなぜ、できなかったんですか?
Aさん:
ええ、すいません。また仕事での外食とかが立て続けにあって、ちょっと食べ過ぎたり飲み過ぎちゃったんですよ。
医師:
いつも言ってますよね、このまま糖尿病が悪化すると、インスリンの注射治療が必要になりますよ)。
Aさん:
よくわかっているんですが、仕事の関係だと自分だけ食べないというのもなかなかできないので……。
医師:
でも身体のことより仕事を優先していると、どんどん病気が悪くなっていく一方ですよね?
Aさん:
はい、まぁ、そうですけど……。
医師:
じゃあ、もっと頑張って食事療法に取り組んでください。
今に取り返しのつかないことになってしまいますよ)。
  1. 過去形・否定型質問
    過去のことを否定系の言葉を使いながら質問しています。患者にはどうすることもできず、次に向けての提案にもつながりません。
  1. 脅迫型コミュニケーション
    相手に恐怖を与える話し方は、心理的な圧迫感だけでなく治療への拒否感、医師への不信感を抱かせます。
  1. 否定型・クローズ型質問
    否定形の言葉を使いながら、「はい」「いいえ」でしか答えられない質問を投げかけ、患者の自主性を尊重していません。

さて、この会話例のようなコミュニケーションで、果たして患者との間で信頼関係を築くことができるでしょうか? また、どのような印象を受けるでしょうか? シンプルですが、とてもネガティブな印象です。その理由として挙げられるのが、以下の項目です。

  1. 過去形・否定型質問
    過去のことを否定系の言葉を使いながら質問しています。患者にはどうすることもできず、次に向けての提案にもつながりません。
  2. 脅迫型コミュニケーション
    相手に恐怖を与える話し方は、心理的な圧迫感だけでなく治療への拒否感、医師への不信感を抱かせます。
  3. 否定型・クローズ型質問
    否定形の言葉を使いながら、「はい」「いいえ」でしか答えられない質問を投げかけ、患者の自主性を尊重していません。

患者指導ではこうしたコミュニケーションに陥ってしまいがちです。医師の立場から見ると患者の現状について正論を述べてはいますが、具体的な解決法を提案する姿勢に欠け、患者を責めて反省を促すだけになっています。

しかし、問題を指摘するだけでよい治療が続くでしょうか。問題があることは患者も理解しており、それを改めて指摘されるだけでは治療に対するモチベーションも上がらないでしょう。「臨床コーチング」には患者と問題を共有し、それを踏まえて次にどうすればうまくいくのか、改善できるのかを自発的に考えてもらうための方法が存在します。

【理論編】コーチングの「スキル」を使えば患者とのコミュニケーションが変わる

しばしば自己流になりがちな患者面接に「臨床コーチング」を取り入れるシステムのひとつが、コーチングに基づく考え方や答え方、喋り方を形式化した「スキル」です。特別な技術ではありませんが、普通の会話の中ではわざわざ使わないスキルを知ることで、患者との会話が非常にスムーズになります。

これら「スキル」には、多くの種類が存在します。今回は、そのなかからいくつかを紹介しましょう。もちろん、ここに挙げたもの以外にも多くの「スキル」が存在しますが、今回はサンプルとして下記・いくつかのスキルを取り上げ、実際の会話例とあわせて解説していきましょう。

<「スキル」の例>
  1. オープンクエスチョン
    クローズ型質問の逆、「はい」「いいえ」では答えられない自由度の高い質問を投げかけます。
  2. オウム返し
    患者の発言をオウム返し(繰り返し)することで、患者は自分の意見が伝わっていると安心でき、かつ自分の発言を再確認することができます。
  3. 枕詞
    患者が答えにくい質問や聞きたくない情報を伝える前に、聞く準備をしてもらうため枕詞を置いてワンクッションを入れます。
  4. 塊をほぐす・具体化する
    患者の発言が抽象的であったり、詳しい状況がわかりにくいときは、言葉の塊をほぐし具体化することが効果的です。両者の理解が深まり、連帯感を生む効果も期待できます。
  5. 承認
    患者の良いところを認め積極的に伝える(褒める)ことで、患者のモチベーションを高めることができ、行動変容を促すことも期待できます。
  6. サマリー
    患者の発言を要約することで、医師が理解し患者を受け止めているというサインになります。患者も自分の言いたいことが正確に伝わっているかを確認することができます。
  7. マイゴールの設定
    ゴールや目標を設定することで現在の状況とゴールの差分が明確になり、患者が自主的にアクションプランを考えやすくなります。
  8. 数値化する
    数値を提示することでゴールに向けて何が必要なのか、どうすべきなのか、患者がより具体的な気づきを得ることができます。
  9. 行動の確認
    患者がとる今後の行動、守るべき指針を医師の知見を踏まえて確認し、患者の同意を得ます。患者は治療方針に納得するこができ、両者の誤解を防ぐこともできます。

普段の会話で、こうした「スキル」を心がけてみると、コミュニケーションにも違いが出てくることを実感できるはずです。

ただの「会話が上手い人」にならないために

スキルを会話に取り入れるのは難しいことではありません。まずは形から入ることで、患者との会話も飛躍的にスムーズになることが期待できます。しかし、「臨床コーチング」の実践にあたって最も大切なのは患者の悩みや発言を丁寧に受け止め、自主性を重んじて問題を解決しようとする姿勢であり、「スキルを使う」ことが目的ではないことを忘れないでください。

また、どのような目的のためにスキルを用いるのか、あらかじめ設定しておくことも重要です。目的がないままスキルだけを用いても、うまく会話ができているだけでしかありません。次にどうしたらいいかを患者に示して、初めて医師としての指導が生まれてくるのです。

前述のコーチングを意識した会話では、会話の中に「聴く」「質問する」「承認して伝える」といった基本的なスキルを用いていますが、最終的には患者に行動変容をもたらすという目的があります。そのためにスキルを用いて「問題の背景をより掘り下げる」「問題点を明確化する」「具体的に行動内容を確認する」「成果を確認する」といったことを行っています。

患者は病気を治療する方法を求めており、医療のプロフェッショナルである医師はそのためにさまざまな方法を提案します。しかし、どの治療を選ぶのか「答え」を持っているのは医師ではなく患者であり、提案するだけで患者が納得できなければ意味がありません。「臨床コーチング」を取り入れることで患者と医師の信頼関係ができ、円滑な疾患指導を実現する助けになるでしょう。

【会話サンプル】「スキル」を使い円滑でオープンなコミュニケーションに

では最後に、前述の<ケース編>で示した「よくある会話例」を元に、同様の会話をするときに「スキル」を意識してみると、どのような変化があるかを見てみましょう。これはあくまで一例ですが、先に示した「スキル」のいくつかを、実際に会話に組み込んでみるサンプルとして、イメージしながら読み進めてみてください。文中のハイライトの部分が、先に示した「スキル」の例と照合します。

医師:
Aさん、今回の検査ではHbA1cが7.2とこれまでで一番上がってしまいましたね。
今回の結果をどう思いますか?
Aさん:
ええ、すいません。また仕事での外食とかが続いて、ちょっと食べ過ぎたり飲み過ぎちゃったんですよ。それで仕方がなかったかなと……。
医師:
仕事での会合で食べ過ぎてしまったんですね)。一度お伺いしてみようと思ってましたが)、Aさんにとって糖尿病を治療することは大切なことですよね?
Aさん:
はい、もちろんです。糖尿病が元でもっとひどい病気になるのもイヤですし、良くなるように頑張りたいと思っています。
医師:
糖尿病治療の中でも食事療法というのが一番基本になるのは知っていますよね?
Aさん:
はい、そう思いますけど……、今回はうまくいきませんでした。
医師:
Aさんにとって、食事療法を頑張るのに、具体的なメリットはどのようなものがありますか?
Aさん:
そりゃあ、糖尿病が改善して血糖も落ち着いてくると思います。
医師:
そのほかには、食事療法を頑張るとどのようなメリットがあると思いますか?
Aさん:
そうですね、食事で減量できると、糖尿病自体が良くなって薬の数が減るし、体重が減ると体が動きやすくなるし、何か気分が良くなるように感じますね。
医師:
なるほど、たくさん良い点があるようですね)、じゃあ逆に食事療法を頑張るのにデメリットはありますか?
Aさん:
仕事として会食したりするので、接待の立場として負担を感じますよね。
医師:
なるほど、お仕事として食事を制限するというのに負担を感じるのですね)。
もう少し詳しく教えていただけますか?
Aさん:
こちらが接待する立場なんだけど、招待しておいて自分だけ料理を食べないというのはおかしいでしょ?お酒もお付き合いの場面では飲まないわけにはいかないですよね。食事療法は必要なのはわかってはいるけど、ジレンマを感じて負担に感じますね。
医師:
なるほど、接待する立場なので、そうしたジレンマでイライラして負担を感じるのですね)。
でも食事制限が大切なこともわかって頑張っていらっしゃるんですね)。
Aさん:
はい、自分なりに頑張りたいとは思っているんですが……。
医師:
では、もう1つ確認させてください)。現在の食事療法の状況を点数をつけるとするとどのくらいになるでしょうか? 理想の状態を100%として何%くらいですか?
Aさん:
そうですね、40%くらいかなぁ。
医師:
では、その40%を10%アップさせるには、何かできることはありますか?
Aさん:
そうですね、工夫してできることなら、例えば会食などのときに低カロリーの和食のメニューを選ぶとかかなぁ。
医師:
それはいいですね)。それなら実行できますね。それから私から1つ提案をしてよいですか)。
Aさん:
はい。
医師:
お酒をのむときには、ごはんなど炭水化物を減らしてみるのはどうでしょう?例えば、ご飯が出た時には、食べないように頑張ってみると、カロリーを減らすことができますよ。
Aさん:
そうですね、それくらいなら仕事の会合の場面でも不自然ではないですね。
医師:
では、まずできることをまとめると)、仕事の外食の場面では、和食などのカロリーの少ないものを選ぶこと、炭水化物や油物を摂らないように頑張ることですね、これならさっそく実行できそうですね)。
Aさん:
はい、それならまず実行してみます。
医師:
それでは、具体的にいつからとか、始めてみる自信はありますか?
Aさん:
さっそく明日仕事の会合で食事会があるので、試してみようと思います。
医師:
それはいいですね)、是非試して、続けてみてください。
また次の外来の時に成果を聞かせてくださいね)。
Aさん:
はい、わかりました、頑張ってみます。
  1. オープンクエスチョン
    クローズ型質問の逆、「はい」「いいえ」では答えられない自由度の高い質問を投げかけます。
  1. オウム返し
    患者の発言をオウム返し(繰り返し)することで、患者は自分の意見が伝わっていると安心でき、かつ自分の発言を再確認することができます。
  1. 枕詞
    患者が答えにくい質問や聞きたくない情報を伝える前に、聞く準備をしてもらうため枕詞を置いてワンクッションを入れます。
  1. 塊をほぐす・具体化する
    患者の発言が抽象的であったり、詳しい状況がわかりにくいときは、言葉の塊をほぐし具体化することが効果的です。両者の理解が深まり、連帯感を生む効果も期待できます。
  1. 承認
    患者の良いところを認め積極的に伝える(褒める)ことで、患者のモチベーションを高めることができ、行動変容を促すことも期待できます。
  1. サマリー
    患者の発言を要約することで、医師が理解し患者を受け止めているというサインになります。患者も自分の言いたいことが正確に伝わっているかを確認することができます。
  1. マイゴールの設定
    ゴールや目標を設定することで現在の状況とゴールの差分が明確になり、患者が自主的にアクションプランを考えやすくなります。
  1. 数値化する
    数値を提示することでゴールに向けて何が必要なのか、どうすべきなのか、患者がより具体的な気づきを得ることができます。
  1. 行動の確認
    患者がとる今後の行動、守るべき指針を医師の知見を踏まえて確認し、患者の同意を得ます。患者は治療方針に納得するこができ、両者の誤解を防ぐこともできます。
~患者との円滑な関係を実現し治療効果も高める「スキル」を知ろう~

筆者プロフィール

田丸 司 氏

写真

偕行会リハビリテーション病院 院長
日本臨床コーチング研究会 副会長

1988年、奈良県立医科大学医学部卒業。1991年、奈良県立医科大学神経内科に入局。同大付属病院リハビリテーション部助手、医局長を経て2004年、偕行会リハビリテーション病院副院長に就任。2012年より病院長を務める。「臨床コーチング」の実践、普及に取り組む「臨床コーチング研究会」副会長として医療者にコーチング技術を広めるため、積極的にセミナーや研究会を開催・講演している。

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