MBA流クリニック経営

第2回コーチング:『職員と病院、その先の患者も見据えた「臨床コーチングマインド」~実践!臨床コーチング』
~職員とのコミュニケーションが変われば病院も変わる~

偕行会リハビリテーション病院 院長
日本臨床コーチング研究会 副会長
田丸 司 氏

「臨床コーチング」は、前回・第1回でご紹介したような「対患者」に限定されるものではありません。職員に対しても実践することで、環境改善やパフォーマンスの向上など、病院組織全体にも大きな変化をもたらす可能性を秘めています。そして、その変化は患者に対してもポジティブな効果があることを示すエビデンスも確認されています。
「臨床コーチング」はコーチングのノウハウを活かしつつ、医療者としての視点から解決策を職員、組織、患者と共に模索し、全員によりよいゴールを提示することを目的としているのです。
第2回目の今回は、病院組織内での上司と部下の会話例をもとに、コミュニケーションの変化がもたらす効果をご紹介します。

本稿で学ぶポイント

  • 職員が「自発的に問題を洗い出し、解決策を模索していく」ための対話の手法
  • 「治療を成功に導く」ための環境づくりに有効なコミュニケーション

【ケース編】職員との会話例(事例:ミスが多い職員への指導例)

第1回で取り上げた患者に対する指導に限らず、「臨床コーチング」を実践するうえで大切なのは、コミュニケーションを通して具体的な行動プランに踏み込み、最終的には医療上必要な「行動につなげる」ことです。
対患者の場合、医師は患者の自主性を尊重しつつ、自身の知識に基づき治療を成功させるために最適な道筋へとサポートしなければいけません。それは対象が職員や看護師、同僚の医師でも変わりません。
医師は治療を成功させるため、治療の意図や背景を看護師やコメディカルスタッフに伝え、問題解決にあたります。その際、自発的に行動をしてもらうには、医師も一緒になって解決手段を模索する姿勢が求められます。では、次のような会話例であればどうでしょうか。

上司:
Aさん、今日も患者さんの検査予定が1つ抜けていましたよ。これで3回目です。どうなっているの?
Aさん:
はい、すみません。
上司:
外来の部門に入って、もう半年になるのに、ミスが減らないのはどういうことかな?
Aさん:
すみません。気を付けているつもりなんですけど……。
上司:
前にも検査の手順について、一つひとつ確認しましたよね。こちらの教え方が悪かったかな?
Aさん:
いいえ、そんなことはないんです。自分が悪いので、本当にすみません。
上司:
謝ってばかりで、全然進歩してないよね。なんでミスしたのかちゃんと考えてくれる?
Aさん:
はい、朝から予定外の作業がたくさんあって、ついつい大事なことを見逃してしまったんです。
上司:
予定外って、よくあることでしょ?もっとしっかりしないと、仕事をまかせられないよ。
  1. 脅迫型コミュニケーション
    相手に恐怖を与える話し方は、心理的な圧迫感だけでなく上司や仕事への拒否感・不信感を抱かせます。
  1. 過去形・否定型質問
    過去のことを否定系の言葉を使いながら質問しています。質問された側にはどうすることもできず、次に向けての提案にもつながりません。
  1. クローズ型質問
    否定形の言葉を使いながら、「はい」「いいえ」でしか答えられない質問を投げかけ、相手の自主性を尊重していません。

上司の立場としてはよくあるタイプの指導ケースですが、以下に挙げるような「過去型」「否定型」「クローズ型」の質問を続け、最後は「脅迫型コミュニケーション」で終わっています。これでは相手に責められている印象を強く与えるばかりで、指導として発展的に解決するのが難しくなってしまいます。相手が心理的な負担を感じることもあるでしょう。

  1. 脅迫型コミュニケーション
    相手に恐怖を与える話し方は、心理的な圧迫感だけでなく上司や仕事への拒否感・不信感を抱かせます。
  2. 過去形・否定型質問
    過去のことを否定系の言葉を使いながら質問しています。質問された側にはどうすることもできず、次に向けての提案にもつながりません。
  3. クローズ型質問
    否定形の言葉を使いながら、「はい」「いいえ」でしか答えられない質問を投げかけ、相手の自主性を尊重していません。

縦型の組織では、コミュニケーションが「問題があるから、こう解決してくれ」とトップダウン式になることが少なくありませんが、必ずしもうまくいくとは限りません。
コミュニケーションには、相手とコンセンサスを作るという面があり、前述のような会話に陥ってしまうと、職員もミスや問題を恐れて萎縮してしまうでしょう。また、患者は職員の対応などから病院の雰囲気を感じ取っているため、患者にもネガティブな影響を与える恐れもあります。

しかし、「臨床コーチング」に基づくコミュニケーションの手法を学ぶことで、相手に拒否感を与えることなく自分の話を聞いてもらうことができます。その上で問題点を分析し、自分たちで解決できるような方法で気づきを与え、スムーズに対処できる方向へと変化させることができます。
またこうしたコーチング的な思考、「コーチングマインド」の効果は上司から部下への指導やコミュニケーションの改善にとどまりません。自らが困難な問題に取り組むとき、解決法をどう導き出せばいいのか、どうすればうまく解決法を実行できるのか、思考的な助けになることも期待できるでしょう。

【理論編】問いかけを駆使し、問題解決のための未来的な提案を

臨床の現場に「臨床コーチング」を取り入れる方法として、考え方や答え方、喋り方を形式化した「スキル」が存在することは前回ご紹介しました。「スキル」を活用するうえで重要なのは、「問いかける」ことです。問いかけられることで人は考え、答えを導こうとして気づきを得ることができます。また、「次はどうすべきか」という未来志向のリードも必要です。
問題が顕在化していなくても、「オープンクエスチョン」によって新たな視点から問題点が浮かび上がってくるかもしれません。医師には順調に見えても、看護師には問題が見えていることもあるでしょう。

ひとつの事象も立場が違えば視点も異なることを認識し、共通の話題から「オープンクエスチョン」で相手の意見を引き出し、解決すべき問題があれば解決方法を模索していくことができます。会話だけでなく会議の場などでも、抽象的で見えにくい問題がないかを確認したり、引っかかることがあるとき「臨床コーチング」のスキルは有効です。

<「スキル」の例>
  1. 未来型質問
    前出の「過去形質問」とは逆に、未来形の言葉を含む質問です。どうしたいのか、どうすればよいのか、今後につながる発展的な質問を問いかけます。
  2. 許可をとる枕詞
    相手が答えにくい質問や聞きたくない情報を伝える前に、聞く準備をしてもらうため枕詞を置いてワンクッションを入れます。このあとにご紹介する今回の「会話サンプル」では、職員(部下)の許諾を得るための問いかけを行っています。
  3. オープンクエスチョン
    「はい」「いいえ」という答えに限定させない、具体的で多様な意見を引き出せるような質問を投げかけます。
  4. マイゴールの設定
    指導する相手にゴールや目標の設定を促すことで現在の状況とゴールの差分が明確になり、相手が自主的にアクションプランを考えやすくなります。
  5. オウム返し
    相手の発言をオウム返し(繰り返し)することで、相手は自分の意見が伝わっていると安心でき、かつ自分の発言を再確認することができます。
  6. 承認
    相手の良いところを認め積極的に伝える(褒める)ことでモチベーションを高めることができ、行動変容を促すことも期待できます。
  7. 数値化する
    数値を提示することでゴールに向けて何が必要なのか、どうすべきなのか、相手がより具体的な気づきを得ることができます。
コミュニケーションの先にいる患者の存在を忘れない

部下への指導はミスを責める会話になりがちですが、必要なことは問題解決のための行動支援です。解決のためには、相手のモチベーションを保つことを前提とし、問題に対する状況の分析、自発的な解決案の提示、解決にいたるプロセスを明示し、それらを共有していかなければいけません。具体的な数値化や手順の確認を行い、さらに理想の状況を想定することでより強いサポートとなるでしょう。

病院組織の中で医師が誰に対してもコーチング的なコミュニケーションをとると、会話を通して多くの人が「臨床コーチング」的な思考や姿勢を意識するようになります。それにより、患者を含めた他者への接し方の向上・改善も期待でき、職員にとっても働きやすい環境にもなるかもしれません。

患者への対応が向上・改善すれば、当然ですが患者にとって病院の居心地も良くなり、満足度も向上します。職員に対して高圧的な医師がいる病院と、そうでない病院では患者が受ける安心感も異なります。最初に述べたとおり、「臨床コーチング」は医療者の視点からコミュニケーションを通して職員や組織の問題を解決し、その先にいる患者によりよい医療を提供して治療を成功させることを目的としています。何のために、誰のためにコーチングマインドを持つのか、常に忘れてはならないでしょう。

【会話サンプル】相手と問題を共有するための「スキル」活用法

最後に、前述の<ケース編>で示した「職員との会話例」を元に、同様の会話をするときに「スキル」を意識すると、どのような変化があるかを見てみましょう。注意が必要なのは、会話例はあくまでスキルを使ってうまく成立させた「例」にすぎず、このような会話をすることが目的ではないという点です。「相手の考えや希望を引き出し、問題を共有する」という意識を欠き、スキルを使うことに捉われるとコミュニケーションが難しくなってしまいます。
※文中のハイライトの部分が、先に示した「スキル」の例と照合します。

上司:
Aさん、今日も患者さんの検査予定が1つ抜けていましたよ。これで3回目ですね。
これからどうしたらミスが減らせるのか考えてみませんか?ちょっと時間をとってくれますか?
Aさん:
はい、その件ではすいません。どうぞよろしくお願いします。
上司:
外来の部門に入って半年になるけど、まだ初歩的なミスがありますね。こういうミスが起こることについてどう考えているのかな?
Aさん:
本当に申し訳ありません。早く部署になれて一人前にやっていかなければいけないんですけど。
上司:
外来に来て仕事をしてみたいというのは、あなたの希望でしたよね?
どんな役割をしてみたいと思っていたのかな?
Aさん:
はい、多くの患者さんが元気に通院するのを手助けできればいいな、と思っていました。
上司:
そのためにはどんな役割ができればいいのかな?
Aさん:
まずは安心して仕事をまかせてもらえるよう一人前の役割が果たせるようになりたいですね。
上司:
なるほど、まずは一人前の仕事ができる、ということですね。
ほかにもイメージできることはありますか?
Aさん:
そうですね、いつも笑顔で患者さんに元気を与えられるようになれば最高ですけど。
上司:
なるほど、それは素晴らしいことですね。)私も力になれるように応援しますよ。
理想の状態を100点とすると、今はどのくらいかな?
Aさん:
そうでうすね、まだ50点くらいかな。
上司:
半分ということは、どんなことがまだ足りないかな?
Aさん:
やっぱり初歩的なミスがあるのと、仕事が忙しくなれば笑顔で接するような余裕も全然なくなってしまうんです。
上司:
なるほど、患者さんも調子がいい時ばかりではないし、不測の事態が起こった時にあわてずに対応しなければいけませんよね。ではまずは初歩的なミスがなくなるために、何かできることはありますか?
Aさん:
ルーチンの検査とかは行うことがきまっているので、チェック表を作成して確認してみようと思います。
上司:
ああ、それはいい考えですね。ミスがなくなると、自然と余裕が生まれるし、笑顔で接することができると思いますよ。さっそく始めてくださいね。きっと上手くいきますよ。
Aさん:
はい、わかりました。がんばりますのでよろしくお願いします。
  1. 未来型質問
    前出の「過去形質問」とは逆に、未来形の言葉を含む質問です。どうしたいのか、どうすればよいのか、今後につながる発展的な質問を問いかけます。
  1. 許可をとる枕詞
    相手が答えにくい質問や聞きたくない情報を伝える前に、聞く準備をしてもらうため枕詞を置いてワンクッションを入れます。このあとにご紹介する今回の「会話サンプル」では、職員(部下)の許諾を得るための問いかけを行っています。
  1. オープンクエスチョン
    「はい」「いいえ」という答えに限定させない、具体的で多様な意見を引き出せるような質問を投げかけます。
  1. マイゴールの設定
    指導する相手にゴールや目標の設定を促すことで現在の状況とゴールの差分が明確になり、相手が自主的にアクションプランを考えやすくなります。
  1. オウム返し
    相手の発言をオウム返し(繰り返し)することで、相手は自分の意見が伝わっていると安心でき、かつ自分の発言を再確認することができます。
  1. 承認
    相手の良いところを認め積極的に伝える(褒める)ことでモチベーションを高めることができ、行動変容を促すことも期待できます。
  1. 数値化する
    数値を提示することでゴールに向けて何が必要なのか、どうすべきなのか、相手がより具体的な気づきを得ることができます。
  1. 数値化する
    数値を提示することでゴールに向けて何が必要なのか、どうすべきなのか、患者がより具体的な気づきを得ることができます。
  1. 行動の確認
    患者がとる今後の行動、守るべき指針を医師の知見を踏まえて確認し、患者の同意を得ます。患者は治療方針に納得するこができ、両者の誤解を防ぐこともできます。

病院において患者に最大限の利益をもたらす、つまり満足度が高く治療効果の高い医療を提供するためには、高度で最先端の治療機器や医薬品などを導入し、ハード面を充実させる必要があると考えられています。しかし一方で、「臨床コーチング」を通してコミュニケーション活動に変化をもたらすというシンプルな方法で職員やスタッフがその能力を十分に発揮する環境を実現し、結果的に患者の満足度が高い医療を提供することができます。

これまでの2回のコラムでは、普段の会話例を通じて「臨床コーチング」のエッセンスに触れてもらいました。次回からはコミュニケーションにとどまらない、組織やチームのマネジメントにおける「臨床コーチング」のあり方についてご紹介していきます。

<~組織やスタッフ、その先にいる患者への効果を考えた「臨床コーチング」的な姿勢~>3つのポイント

筆者プロフィール

田丸 司 氏

写真

偕行会リハビリテーション病院 院長
日本臨床コーチング研究会 副会長

1988年、奈良県立医科大学医学部卒業。1991年、奈良県立医科大学神経内科に入局。同大付属病院リハビリテーション部助手、医局長を経て2004年、偕行会リハビリテーション病院副院長に就任。2012年より病院長を務める。「臨床コーチング」の実践、普及に取り組む「臨床コーチング研究会」副会長として医療者にコーチング技術を広めるため、積極的にセミナーや研究会を開催・講演している。

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