MBA流クリニック経営

第3回コーチング:『よりよい医療現場づくりのヒント〜実践!臨床コーチング』
~卓越した成果をもたらすチームを作り上げる「チームコーチング」——「私」から「私たち」へと意識を変える~

三重大学医学部附属病院 総合診療科 助教・医局長
田口 智博 氏

これまで2回に渡ってご紹介している「臨床コーチング」ですが、個人の課題解決・目標達成を支援するだけではありません。個人をまとめ組織の課題に取り組む集団とし、メンバーの相乗効果による目標達成に主眼を置いたコーチングが存在します。

気づきや意欲・可能性を引きだし主体的な行動を促すという点では1対1のコーチングと同様ですが、集団を対象としたコーチングは組織のニーズに応じた、実践で成長する「チーム」構築を目指し、メンバーのリーダーシップ開発と組織の成果実現を支援します。3回目となる今回は、コーチングによるチーム構築法と、そのポイントをご紹介します。

本稿で学ぶポイント

  • なぜ「チームコーチング」が必要なのか?~「グループ」と「チーム」の違い
  • チーム構築の導入期で「グループ」を「チーム」に変容するポイント

【ケース編】組織が陥りがちな「グループ」ビルディング

なぜ「チームコーチング」が必要か

多くの病院組織が限られたリソースや時間の中で、患者や地域のために高い成果を上げる方法を模索しています。そのひとつが、さまざまな専門性や強みを持った医療者が集まり、診療科や職種の垣根を越えてメンバーが連携して治療にあたる「チーム医療」でしょう。また、直接的な治療だけでなく組織全体の問題、例えば労働時間や環境、コストの問題などにも時には複数のメンバーで協力して取り組む必要があります。

しかし、医療職は高い専門性を持つ人材であるがゆえに、専門外の領域や医療以外の汎用的な領域にはコミットメントが低くなりがちで、ただ人を集めただけでは思うように能力を発揮できない場合があります。

個々の能力が高いことは大切ですが、病院組織のさまざまな問題・課題を解決し、より高いレベルで患者や地域へ貢献するためには、各々の専門性、知識、スキルを活かせる集団構築が不可欠であり、その支援のためのコーチングとして「チームコーチング」が存在します。

「チームコーチング」がどのように機能するのか。まずは、ある病院でのプロジェクト例を見てみましょう。

【背景】

A病院は患者数増加および経営の改善を年間目標に掲げ、個人の懸命な取り組みによって目標に近い数字を達成しつつあります。一方で職員からは「時間外労働が増え疲弊しており、この状況を続けるのは困難」「職員によって取り組みに差があり不公平だ」という声が多く聞かれるようになっていました。

働き方改革が求められる社会的背景や時間外労働に対する賃金も課題となりつつあり、A病院でも時間外労働を減らすプロジェクトを発足。「働き方に関わる問題は病院全体で横断的に取り組むべきだ」と考え、各部署から1人ずつプロジェクトに参加する人を選出するよう命じ、合計20名のメンバーを集めました(

メンバーは患者や地域住民により貢献し、勤務している職場環境を改善したいという意欲のある人が選ばれましたが、現実には目の前の課題を解決することで精一杯。自分の専門性の維持向上につながるのであればいいが、組織全体の課題に関する今回のプロジェクトにはできれば関わりたくないというのが本音でした(

その後、第1回会議が行われましたが、無断欠席する人もおり会議の参加者は15名。積極的に発言するメンバーは少なく、役職が高い一部の人だけが発言し、ほかのメンバーはそれに依存して主体的な参加意識が低いままでした。さらに、現在の状況はほかの部署や人の責任であり自分は被害者と感じています(

そもそもこのプロジェクトは何のためにあるのかがあいまい(で、何をすればどのように役立つのかメンバーにもわかっていません。話し合ったことを実行していいのかも不明なまま、現在の問題に対して個人の場当たり的な発言ですることが決められていきました。

会議によって一応自分のやるべきタスクはわかっても、プロジェクトのビジョンや行動基準・目標や戦略が決められておらず、内容をよく理解していないメンバーもいるため一体感はないままです。

その後も会議を行うが議案は当日になって判明することが多く、時間は長くなりがち。いつ終わるのか決まっておらず、結論が出ず、何も決まらないことも多いという悪循環に陥っています(

【問題点】

A病院が問題解決のために始めたプロジェクトは、なぜ機能不全に陥っているのでしょうか。チームコーチング的視点からA病院の事例を読み解いてみると、以下のような問題が浮かび上がってきます(以下の番号は、上記文中の番号と符合します。

  1. 組織全体での取り組みにこだわり、チームダイナミクスを発揮するには人数が多くなっている
  2. 組織へのコミットメントが低く、問題や課題を他者の責任にする(他責)
  3. 目的・ミッションが決まっておらず、非効率的・非生産的な会議に陥る

これらの問題点を「チームコーチング」では、“「チーム」ではなく、個人の集団としての「グループ」になっている”と見なします。

一般的に「チーム」も「グループ」も「複数人が集まって形成する集団」という意味で似た言葉ですが、「チームコーチング」において両者は成果のレベルが大きく異なる別の集団です。何が両者の差なのでしょうか。

まず、「グループ」は個人が集まっただけの人数が多い集団と定義されます。多いゆえに目的が曖昧な場合が少なくありません。メンバーも「私たちの仕事」という意識が希薄で、「グループ」内で自分の仕事をするという構図になり、得られる成果は各々の成果を足し合わせる相加効果でしかなく、組織としての成果が上がりづらい状態です。

一方、「チーム」は少人数で明確な目的・ビジョンを共有する集団であり、メンバーは「私たちの仕事」という意識を持って、問題・課題やその解決法、実行法、タスクを分担しつつサポートしあいます。相乗効果によって成果があがるだけでなく、高いレベルでかつ短期間のうちに目標を達成することも期待できるでしょう。

病院組織においては、時間もリソースも有限です。効率よく卓越した成果を上げなければいけないという視点から考えると「グループ」ではなく「チーム」であることが望ましいのです。つまり、チームコーチングとは“「グループ」を「チーム」へと変容させるメソッド”なのです。

続く【理論編】では、先の問題点()に対し、チームコーチング的な視点での取り組み方()をご紹介しましょう。

【理論編】「私」から「私たち」へと意識を変化させる

「チームコーチング」に基づくチーム構築が始まったばかりの導入期において最も重要なのが「チームとしてのコンセンサスを得ること」です。メンバー全員が心から納得するまで発言を重ねることで「チーム」に「私たちが決めた」という責任感が生まれ、「チーム」として次のステップに踏み出せます。コンセンサスが得られていない状態では「私が決めたのではないから関係ない」という「グループ」思考のままです。

では、どうすればスムーズに「チーム」のコンセンサスを得ることができるのでしょうか。「チームコーチング」にはいくつかの取り組み方=“秘訣”ポイントがあります。

【チームコーチングの秘訣】

①チームの編成は「チームダイナミクスを発揮する人数」を考慮する

10人を超えると発言をしない人や埋もれて隠れてしまう人が出てしまい、逆に3~4人では多様な視点のアイデアが生まれづらくなってしまうでしょう。チームダイナミクスを発揮しやすい人数でチームを編成するようにしましょう。

相乗効果が生まれやすいチームの人数は6~8人、多くても10人程度がよいとされます。

②「全員発言」でコミットメントを高め、「他責」から「私たち(チーム)の責任」へ

チームや会議へのコミットメントを高めるには、全員が参加・発言できるよう平等な立場にすることが重要です。メンバーが権限や肩書を持つ必要はありません。チームそのものに病院から権限を与えることでチーム内での平等な立場が保証され、チームとしての責任感も生まれます。
医療職のように専門性が強いほど専門外のことには関心が低くなり、「労働時間に関する問題は社会の変化のせいだ」「他部署の担当者が怠慢だからだ」と他者の責任にする「他責」意識を持ちがちです。しかし、「自分たちの意識や行動によって眼前の現実が起きている」と考えられれば、「自分たちが変われば今の状況も変わる」ということに気づき、問題解決への主体性やモチベーションも生まれ、チームとしての出発点に立つことができます。


チーム構築の初期段階でなかなか全員の発言を引き出せないときは、全員が付箋などに必ず書いて貼り出してから発言する「発言の可視化」が有効です。発言だけではわかりにくい状況も可視化されれば把握しやすくなり、会議がまとまりやすくなることも期待できます。

また、チームが何のために存在し、何を達成したいのか——会議の際には、お互いに「問いかけ」を行うなどしながら全員で話し合うことで一体感が生まれ、「私は」から「私たちは」という意識に変化します。

③チームの明確な目的・ミッションを決め、それに応じた「会議ルール」を設定する

チームの目的やミッションを決め、チームの方向性を全員が共有することが、グループからチームへと変わるターニングポイントになります。問題・課題を前にするとチームの中で声の大きい人が解決法から役割まですべてを決めてしまう形に陥りがちです。これではチームになっても実際に取り組むのは個人のままです。

さらに、目的が決まってもその達成方法を探索する会議にルールがなければメンバーが好きなように言い合うだけの非効率的・非生産的な会議に陥ってしまいます。会議後になって「あの話はおかしい」と声が出てきたり、A病院のような状況にならないためにも、「会議ルール」を設定することが大切です。そのうえで、チームのビジョンと行動基準・目標を設定し、達成のための戦略・計画・役割分担を決め、実行に移します。


チームコーチングにおける会議のルールには「お互いの顔が見える位置に座る」・「ファシリテーター(司会)が発言を促す」・「テーマごとに時間枠を決める」などがあります。「チーム内で異なる意見や考えを共有する会議にするためにはどのようなルールが必要か」と考え、チームに最適なルールを設定してください。

また、ただルールを守るだけでなく、「今の会議は時間通りに終わった」「時間内で全員発言できた」と必ずルールに基づいた「振り返り」を行いましょう。振り返りから得られた知見がチームとしての成長にもつながり、より高い成果をもたらしてくれるでしょう。

チームコーチングに基づいたチーム構築に成功すると、メンバーの発言に変化が表れます。グループのころは「私はこう思います」とあくまで個人が主体の発言になりますが、チームになれば「今私たちはこういう状況です」「私たちはこの方向に向かわなければいけない」と、チーム意識が発言に表れます。

個人の変化も起こす「チームコーチング」

チームコーチングは「チーム」の成果を達成することが目的ですが、個人にとっても今まで言えなかったことを言えるようになり、「チーム」としての仕事を担うことで自分の価値を確認し存在意義を得ることができます。

責任感や主体性も生まれ、誰かに依存することなく自ら行動しようとするリーダーシップも生まれます。「チーム」の成長が個人の成長へとつながり、自分の専門や課題に限らずさまざまな領域で能力を発揮することができる人材となるでしょう。

今回は「チーム」の基本、チーム構築のポイントをご紹介しました。次回は、誕生した「チーム」が継続して成果を上げ続ける「自走するチーム」となるために必要なチームコーチングについてご紹介していきます。

<~グループではなく、「私たち」というチーム意識を持った「チームビルディング」のために~>3つのポイント

筆者プロフィール

田口 智博 氏

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三重大学医学部附属病院 総合診療科 助教・医局長

PHP 上級認定ビジネスコーチ、PHP認定チームコーチ。日本臨床コーチング研究会/東海臨床コーチング研究会幹事。名古屋大学非常勤講師、東京大学大学院非常勤講師。
2000 年山梨医科大学(現・山梨大学)医学部医学科卒。聖路加国際病院内科系初期研修、内科後期研修、亀田メディカルセンター家庭医療後期研修、総合診療・感染症科医長、名古屋大学大学院などを経て、2011 年より現職。コーチングとチームコーチングをテーマに診療、教育、組織運営で実践・研究をし、全国各地の学生や医療者に紹介している。

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