MBA流クリニック経営

第4回コーチング:『よりよい医療現場づくりのヒント〜実践!臨床コーチング』
~成長をしながら成果ももたらすチームとなるために——問題解決に向けて自走するチームを構築する~

三重大学医学部附属病院 総合診療科 助教・医局長
田口 智博 氏

第3回ではチームコーチングにおいて「チーム」と「グループ」は成果のレベルが大きく異なる集団であると見なし、少人数で明確な目的・ビジョンを共有して問題解決に取り組む「チーム」の構築方法をご紹介しました。

しかし、「チーム」を作れば問題が解決するわけではありません。組織に成果をもたらす「チーム」になるためには、乗り越えなければいけない壁があります。今回は、その壁をどのように乗り越えるべきか、「チーム」やメンバーの成長という視点も交えながらご紹介します。

本稿で学ぶポイント

  • 対立や混乱を迎えた「チーム」が行うべきことは?~「振り返り」の重要性
  • 「チーム」の自走に不可欠な「成果思考」「当事者意識」「メンバーの主体性」
  • 「誰かがリーダー」ではなく「全員がリーダーシップを発揮する」

【ケース編】「チーム」が直面する「混乱期」

【背景】

第3回で事例を取り上げたA病院と同じように、病院の働き方改革に取り組むB病院は現場の負担軽減策として、不足している看護師の採用を増やすためのプロジェクトを立ち上げました。

B病院にはチームコーチングの研修を受けた職員がおり、プロジェクト「チーム」構築を目指し、部署や役職に拘らず、時間外労働の問題に強い関心を持つ8人をメンバーに選出。発足時には2日間に渡ってまとまった時間を用意し、全員で「チーム」の目標を明確化・共有することもできました。

その後も週に1度は必ず定例会議を開催。問題解決に向けた取り組みを模索していますが、なかなか成果が上がりません。

B病院のチームは「会議には全員が参加し、必ず本音・本心で発言する」というルールを設定し、メンバーもそのルールを守っています。しかし、「チーム」の目標が共有されているとはいえ、本音・本心で話すことでお互いに相容れない部分も表れ、対立が起きるようになりました。

メンバーは優秀で問題解決に高い意欲を持つ医療者であり、自身の意見に強い自信を持っている(ため、会議の中で行った提案や指摘が受け入れられない場合に強い不満を示し、他のメンバーの言動に敵意を持つこともあり、チーム内での対立はより進んでいきました。

こうした状況の中で、「チームの中で揉めても仕方がない」「お互いを尊重して仲良くやろう」と、対立を解消しメンバーの関係をよくしようとする動きも見られるようになりました(

しかし、やがて対立を恐れて本音・本心での発言ができなくなり(、建設的な議論がされない状態となったのです。

「チーム」の現状に焦りを覚えたメンバーの1人が積極的に提案や他のメンバーへの働きかけを行いましたが、その人物がチームリーダーのように認識されてしまい、「リーダーがやればいい」という雰囲気も生まれ(、「チーム」は個人単位で与えられた作業を行う集団へと逆戻りしつつあります。

「チーム」としての達成感や成長感が得られないため、「このチームでの仕事はやりがいがない」とメンバーのモチベーションは下がり、問題解決への取り組みは遠のいてしまいました。

チーム構築後に生じた混乱や対立をきっかけに、B病院のチームは思うように成果を上げることができず崩壊の危機に陥っていますが、混乱や対立が起きたことが問題ではありません。メンバーはそれぞれ異なる価値観や独自の視点を持った自立した人間であり、本音・本心での話し合いから対立が生じるのは当然です。

チームコーチングではチーム構築後に混乱や対立を迎える時期を「混乱期」と呼び、自立して柔軟に対応できる「チーム」へと成長する過渡期であると考えます。
しかし、B病院では下記のように混乱期にチームコーチングに基づかない対応をしたことでさらなる混乱と対立を迎える状態になってしまいました。

【問題点】
  1. 「問題解決思考」で自分の考えた解決法に固執してしまい、チームが必要とする解決法を検討・提案できていない
  2. 対立を避けるという名目でメンバーの本音・本心に基づいた発言を封じている
  3. 全員がリーダーシップを発揮するのではなく、特定の個人をリーダーとし依存する状況を作り出している

混乱を乗り切り、再び「チーム」として問題解決に取り組むためにはどうすればいいのでしょうか。実は第3回でもご紹介している方法が混乱期を迎えたチームには必要なのです。

【理論編】成果と成長を同時に手にするために

混乱期にある「チーム」が行うべきは「関係性をよくする」ことではなく、「チーム」構築時に設定した目的やビジョンを再確認し、その実行のためには「チーム」にとってどのような取り組みが必要なのか、「振り返り」を行うことです。

チームの目的やビジョンは自分たちが決めたものであり、設定時には強い意欲ややりがいを感じていたはずです。振り返りによって「私たちはこれがやりたい、この問題を解決したい」という前向きな立ち返り方ができ、チームの混乱や対立は解消されます。

振り返りを踏まえ、B病院で起きたような混乱や対立への対処を捉え直してみましょう。

【振り返りに基づく混乱期の脱却法】

①「成果思考」でチームのために自分は何ができるのかを考える

問題点をピックアップし、それに合った解決方法を選択する「問題解決思考」は患者の治療では有効です。しかし、「チーム」で治療以外のさまざまな問題に取り組むときに、チームの目的やビジョンに関係なく、自分の見出した問題とその解決方法に拘ってしまう状態に陥ることもあります。

振り返りによってチームの目的・ビジョン、ルールを再確認・再設定すると、問題解決思考から「チームが抱える問題を解決するために、自分の強みやリソースをどう生かすことができるか」という「成果思考」へと切り替えることができます。

メンバー全員が成果思考になることで混乱期にとどまらず、チームが問題に直面したとき「自分たちの拘っているもの(これまでの成功体験など)を手放す」「このタスクは今取り組まず、別のタスクにあたるべきではないか」という視点を持つことも可能になります。

②対立を乗り越えるために強い「当事者意識」を持つ

チーム内の人間関係を良好にしたい、お互いを尊重すべきといった考え方が誤っているわけではありませんが、サッカーや野球などのチームスポーツで何としても勝利を得ようとするとき、「みんなで仲良くプレーしよう」とは考えません。成果思考に基づき、チームが勝利するために何をすべきかと考えます。

これは、病院組織内のプロジェクトチームであっても同じです。「今起きている問題に私たちが取り組まない限り解決に至ることはない」という強い当事者意識をメンバーが共有し、問題を乗り越えた時に成長があると考えることが重要です。いつまでも被害者意識や「自分は自分」のような他責のままでは何も変わりません。

混乱期を迎えメンバー間で対立が起きたときこそが成長のチャンスであり、対立を乗り越えると何が得られるのか(得たいのか)と問いかけ、振り返ることで、建設的な前進につながるのです。

当事者意識を醸成するためにはチームのビジョンや目的が不可欠ですが、マイルストーンや現在の「チーム」の達成状況を振り返って明確にし、メンバー全員が把握することも重要です。

プロジェクト管理や生産管理などで利用されるスケジュールツールやタスク管理ツールなどを用いる、「チーム」の定期的な会議で現在の状況をメンバー全員で洗い出し、共有するといった方法が有効になります。診療報酬の基準のように明確な評価指標があるなら、その達成状況を目安にするのもよいでしょう。

スケジュールツールやタスク管理ツールには、フリーまたは無料でトライアル版が利用できるものもあります。どんなものが自分たちの「チーム」に適しているか、試してみてもよいかもしれません。

ツールの例:
・「todoist」(https://ja.todoist.com/
・「producteev」(https://www.producteev.com/
・「trello」(https://trello.com/

③メンバー全員が主体性を持って「リーダーシップ」を発揮する

「チーム」においてメンバーをまとめるリーダー的存在が設定されているほうが、その人物によって「チーム」全体のレベルも引き上げられることが期待でき、「チーム」構築期には効果的な場合もあります。

しかし、卓越したリーダーがいることでチームがリーダーに依存する状況になってしまうと「グループ」化してしまうため、長期的に見ると有効とは言えません。また、リーダーではなくても、チーム内で強い主張を行うメンバーや肩書・役職が上位のメンバーの発言は、他のメンバーに指示・命令と受け取られる可能性もあります。

チームコーチングでは特定の誰かがリーダーになるのではなく、チームの目的・ビジョンに則ってメンバー全員がリーダーシップを発揮することを重視しています。その中で誰かが「ファシリテーター(まとめ役、仲介役)」を担うという体制を目指しましょう。

めまぐるしく状況が変化していく現代は、誰かが指示・命令をすればやがて問題が解決するという時代ではありません。一人ひとりが主体性を持って、「チーム」で解決していこうという意識が不可欠なのです。

「チーム」のかじ取りを行うリーダーがいなければ、チームの方向性や全体的な成果が曖昧になる、把握できなくなることを危惧するかもしれません。しかし、一年ごとなど長いスパンでチームの成果を振り返り総括することで、「周辺状況の変化から当初進んでいた方向よりも別に方向に進んだ方がいいのではないか」といった確認ができます。ただし、この方法はある程度の期間「チーム」が自走して初めて可能になります。

チームの方向性を確認する手段として「メンバーの入れ替え」も有効です。新しいメンバーが入れば新たな視点が取り入れられ、「チームはこう進んでいるが、本当にこれでよいのか?」という疑問を現行メンバーも持つことができます。

どんな人でも3ヶ月も経てば「チーム」に溶け込んでしまうと言われますが、活性化しているチームほど常にメンバーの出入りがあります。どうしてもメンバーの入れ替えが難しい場合、「チーム」内で役割やタスクを交換してみるのも有効です。

卓越した「チーム」を作るために組織に求められるもの

混乱期を経て、トップダウンで指示・命令を受けなくても状況や変化に応じて何ができるのかを考え、自分たちのリソースを活用して成果を上げていくことができる「チーム」となれば、新たな問題や課題に対しても素早く柔軟に対応できるようになります。

「チーム」が成長し対応能力が向上するほど、病院組織にとって負担となっていた問題が解決され、組織全体に余力が生まれ活性化も期待できるようになるでしょう。

もちろん、「チーム」や個人が臨床現場でもそれ以外の場面でも主体性を発揮するためには、病院組織が問題解決や状況の変化に対応するための確固たるビジョンを持たなければいけません。

持続可能な経営をしながらも、地域の中でどのような病院でありたいのか、あるべきなのか。そのビジョンがないまま「チーム」や個人に目の前の問題課題に取り組ませるだけでは、いずれは疲弊してしまいます。卓越した成果を上げる「チーム」を作るためには、病院組織もまたそのあり方を考え、これまで以上に病院の強み、他病院との差別化を考えなければいけないでしょう。

<~成長しつつ成果をあげる「チーム」となるために~>3つのポイント

筆者プロフィール

田口 智博 氏

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三重大学医学部附属病院 総合診療科 助教・医局長

PHP 上級認定ビジネスコーチ、PHP認定チームコーチ。日本臨床コーチング研究会/東海臨床コーチング研究会幹事。名古屋大学非常勤講師、東京大学大学院非常勤講師。
2000 年山梨医科大学(現・山梨大学)医学部医学科卒。聖路加国際病院内科系初期研修、内科後期研修、亀田メディカルセンター家庭医療後期研修、総合診療・感染症科医長、名古屋大学大学院などを経て、2011 年より現職。コーチングとチームコーチングをテーマに診療、教育、組織運営で実践・研究をし、全国各地の学生や医療者に紹介している。

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