MBA流クリニック経営

第5回コーチング:『よりよい医療現場づくりのヒント~実践!臨床コーチング』
~古い「リーダー」からの脱却 優れたリーダーに求められるものとは~

畑埜クロスマネジメント 代表
臨床コーチング研究会 名誉会長
和歌山県立医科大学名誉教授
畑埜 義雄

病院であれ、企業であれ、組織で働く以上は、誰もがいずれ「リーダー」となることが求められる可能性があります。かつては「指示・命令を出すこと」がリーダーに求められる主な役割であると考えられていたかもしれませんが、チーム医療の概念が根付きつつある臨床現場、病院組織ではリーダーは部下にモチベーションを与え、信頼を得ることで人を動かす存在であることが求められています。

では、どうすればそのようなリーダーになれるのでしょうか。実は、これまでの第1〜4回の記事でも取り上げてきたようなコーチングのスキルやマインドが、“いま求められる優れたリーダー”には不可欠だといえるのです。

本稿で学ぶポイント

  • 「リーダー」には2つのタイプがある——「エンペラー型リーダー」ではなく「コンセンサス型リーダー」が求められる理由
  • 「コンセンサス型リーダー」が部下に用いているコーチングスキル
  • 「コンセンサス型リーダー」に求められるファンダメンタルマインド

【ケース編】誤ったリーダーは組織の崩壊も招く

「優れたリーダー」と聞いたとき、どのような人物像を思い浮かべるでしょうか。あらゆる面で突出した能力を持ち、強い統率力や指導力を発揮し部下を率いる、高みにいる強力で完璧なカリスマ――そんな姿が浮かぶかもしれません。しかし、本当にそうなのでしょうか。ある病院の事例を見てみましょう。

【背景】

A病院にある某診療科の病棟は、管理職10人、看護師などの現場スタッフ15人の計25人が在籍していました。積極的に新人を採用する病院の方針もあり、現場スタッフには5人の新人も含まれていましたが、その内3人がわずか半年で次々と離職していったのです。

一体、病棟で何が起きていたのでしょうか。病棟の勤務状況が極端に過酷であった、新人に対してパワハラが行われていたなどの事実はありません。

新人たちには教育役として11年以上同病棟に勤務するベテランのB看護師が当てられ、フォローする体制もとられていました。B看護師は責任感も強く新人教育にも熱心で、専門知識に長けた優秀な看護師です。心電図、薬物に対する知識は研修医以上であり、医師からも絶大な信頼を寄せられていました。

それ故にB看護師自身は特に役職は付いていないものの、他の看護師たちの見本となるリーダー的存在でなければならないと考え、自分だけでなく周囲に対しても非常に厳しく接していました。

特に新人に対しては、かつて自分が厳しい教育を受けてきたのだからと同じような教育を実施。馴れない業務に戸惑ってしまい、指示に従わなかったり迅速に対応できなかった新人を激しく叱責することも少なくありませんでした。

他の看護師やスタッフたちはB看護師が厳しすぎるのではないかと感じていたものの、ベテランで現場リーダーのような立場のB看護師に対して「厳しい」とは言いづらい状態でした。

病棟のマネジメントを担う本来のリーダーである看護師長もやはりB看護師が厳しいとは感じていたものの注意ができません。3年前に配属されたばかりで診療科の知識に乏しく自信がなかったためです。

結果的に現場リーダーが新人を追い詰め、それをマネジメントリーダーは守れず、新人たちは疲弊し離職する状況を招いてしまいました。

【問題点】

優秀な看護師であり医師からも信頼されているB看護師は一見よい現場リーダーだと思うかもしれません。しかし、実際にはB看護師は部下やスタッフを支配し、指示・命令を下して自分の思うとおりに動かそうとしてしまっています。こうした威圧型のリーダーを「エンペラー型リーダー」と呼びます

  1. 「エンペラー型リーダー」の特徴でもある、「○○をやれ」「○○しろ」といった部下への威圧的な指示・命令は、受けた側にしばしば「やらされている」感を与え、モチベーションを低下させてしまう
  2. 「エンペラー型リーダー」はその性質上高圧的になりやすく、相手の価値を否定しがち。結果的に部下だけでなく、周囲からの信頼も得にくくなる
  3. リーダーの振る舞いは部下に模倣され組織の文化になりやすく、組織全体が威圧的な雰囲気になりかねない

このように部下がやりがいを感じられず信頼できない存在が、リーダーと言えるでしょうか。もちろん、創業期の企業や創設されたばかりの部署など何かをゼロから立ち上げるときは、カリスマ性を持った「エンペラー型リーダー」が周囲を牽引する形で、機能する場面もあるでしょう。

しかし、組織が安定期に入ると「エンペラー型リーダー」は前述のような威圧的な存在に陥りがちです。また、残念ながら医療者のヒエラルキーや権威、肩書、立場を重んじる病院には未だに「エンペラー型リーダー」が組織の文化として残ってしまっている例も少なくありません。B看護師やA病院も古い文化から脱却できておらず、事例のような病棟の崩壊を招いたのです。

【理論編】コーチングによって「コンセンサス型リーダー」を目指す

どれほど優秀な医師でも「エンペラー型リーダー」である限り、いまや優秀なリーダーであるといえないといっていいでしょう。信頼に基づく人間関係を構築できる力を持ち、部下のモチベーションを上げ、指示・命令を与えることなく主体性を持って動いてもらうことができる「コンセンサス型リーダー」こそ、真の優秀なリーダーと言えるのです。

医療技術は経験を積むことで向上が期待できますが、信頼を得る、良好な人間関係を構築するといった能力はもともとの性格も大きく影響するため、時間が経てば向上するというわけではありません。

そこで有効なのが、1~4回までにご紹介してきたコーチングマインドとコーチングスキルです。コーチングで性格を変えることはできませんが、良いスキルは他者と良好な関係を築くための助けとなります。

【コンセンサス型リーダーになるための心得】

①「部下」との向き合い方は患者や同僚と異なる

「エンペラー型リーダー」の最大の問題は威圧的・高圧的であることではなく、部下の価値を認めていない点にあります。

米国でリーダーシップ研究を続けている調査会社ギャラップ社が行った仕事の幸福度に関する調査でも、最も嫌われる上司は「部下に関心・理解がない」「部下が置かれている状況を気にしない」「部下の強みを意識してない」とされており、リーダーの部下に接する姿勢は重要です。

やみくもに声をかけても部下との距離を縮めることはできませんが、コーチングには相手の価値を認めつつ円滑なコミュニケーションを図るため「承認」「傾聴」というスキルが存在します。本連載の1~2回では患者、3~4回ではチームメンバーと向き合うための基本のスキルとして登場しましたが、リーダーが部下に対して用いる場合は、これまでとは異なる視点が必要になります。

Tips

『承認』

相手を認める「承認」はコーチングにおける基本のスキルのひとつです。部下が出した結果を「頑張ったな」などと承認する「成果承認」、「君がいてくれて助かるよ」と部下の存在を承認する「存在承認」、何かに取り組んでいる部下へ「よくやっているね」と声をかける「プロセス承認」などがありますが、大切なのは誰にでもわかりきっていることを承認するのではなく、見えにくい部分を承認することです。

深夜の緊急手術を担当した当直医に対し、朝のカンファレンスで「昨日は大変だったね。ご苦労様」と声をかけることで、相手は自分が見てもらっている、気にかけられているという気持ちになり、リーダーへの信頼も高まります。

Tips

『傾聴』

文字通り相手の話に耳を傾けて聞く、コーチングの根幹となるスキルです。話を聞くというのは単純な行為のようで、難しいものです。特に相手が部下であれば対等な関係ではない意識になりがちで、足を組むなど高圧的な態度をとる、パソコンや資料などを見ながら適当に相槌を打つ、最後まで話を聞かない、部下の意見を否定するなど、とても傾聴とは言えないような姿勢になっていることはありませんか?

「傾聴」は部下に安心感を得てもらうための手段です。何を考えているのか、何が目的なのかを真摯な姿勢でじっくりと聞きだしましょう。

②命令ではなく「質問」で人を動かす

指示・命令で人が動かないわけではありませんが、部下の立場になれば指示・命令は「作業をやらされている」に過ぎず、達成感はありません。不満を感じながら命令に従うことで、リーダーへの信頼感やモチベーションは低下していくことでしょう。

部下が自分で考え、主体的に取り組めなければ「仕事」にはならないのです。そのためには命令ではなく、どうすればよいのか、何をすべきなのか考えさせる、「質問」で人を動かす必要があります。

質問されると頭の中では約600語が考えつき、口に出して話すことで約200語程度まで絞られると言われています。つまり、リーダーが部下に「質問」し、部下の言葉を「傾聴」することで、部下はぼんやりとした考えが研ぎ澄まされ、自分の取り組むべきものが鮮明になり、積極的に動き出せるのです。

Tips

リーダーに不可欠な「承認」「傾聴」「質問」の3つのスキルの中で最も難しく、最も高いスキルが求められるのが「質問」です。私自身「質問」力を養うために、その日に質問する相手と内容を決めるトレーニングを毎日続けているほどです。

また、「質問」のコツも把握しておかなければいけません。人はしばしば質問をするとき「なぜ(Why)」と問いかけますが、そう聞かれた相手は多くの場合、質問された問題の本質を考えず、「なぜなら(Because)」で始まる「言い訳」を考えてしまいます。

問うべきは「なぜできないのか」ではなく、「どうすればできるのか(What、How)」。そう問うことで、質問された部下も初めて何が問題なのかを考えることができるのです。

リーダーだからこそ、あえて自分の能力を出さないことも

リーダーに選ばれる人物は、それだけの評価に値する技術や知識を有しているでしょう。しかし、「自分が率先して仕事に取組み、部下を率いなければいけない。そのためにも適切な指示や命令をしなければ」という思考に陥ってはいけません。医療とはリーダーひとりで完結するものではないのです。

「コンセンサス型」の名前の通り、今のリーダーに求められているのは、部下や組織に所属する人をその気にさせ信頼を得て、巻き込んでいくことで素晴らしい治療や高い成果を実現することです。

そのためには、あえて自分の能力を全面に出さず、部下に対し「自分はこうした弱み(苦手なもの)があるので、助けてもらえないか」と伝えるといった姿勢も有効です。

リーダーが弱みをみせることで、部下に侮られてしまうでしょうか。むしろ、頼まれた部下は自分の価値がリーダーに認められ、力を必要とされている、自分の能力をリーダーはきちんと把握してくれていると感じるでしょう。リーダーは常に完璧である必要はないばかりか、逆に、あえて「弱みを見せる」といった姿勢が、部下のモチベーションを高め、自発的なパフォーマンスの向上を引き出すことができ、また、部下からのサポート・信頼を得ることができるのです。

「いかに人を動かすか」という視点を持ったリーダーに

かつて医療技術こそが医療者の絶対的な価値基準だったころは、リーダーも権威や肩書によって決められ、「エンペラー型リーダー」が支配的に君臨することが当然とされる風潮がありました。

しかし、今や求められるリーダー像は大きく変わっています。権威があるのだからと部下や職員に高圧的な態度をとったり、罵声を浴びせるようなリーダーが患者に信頼されるでしょうか。チーム医療が基本となった臨床現場で人を動かすことができるでしょうか。誰からも注意されることなく、嫌われ、孤立していってしまうでしょう。

今回は権威や肩書ではなく、「この人と仕事がしたい」「この人と仕事ができて幸運だ」と思われる、信頼によって人を動かす「コンセンサス型リーダー」となるためのコーチングマインド、スキルをご紹介しました。

「いかに人を動かすか」という視点はリーダーとしての在り方だけでなく、組織におけるマネジメントにおいても重要になります。次回は「コンセンサス型リーダー」が具体的にどのような方法で人・組織を動かすべきなのか、「コーチング流マネジメント法」を取り上げます。

<部下に信頼される「コンセンサス型リーダー」となるために>3つのポイント

筆者プロフィール

畑埜 義雄 氏

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畑埜クロスマネジメント 代表
臨床コーチング研究会 名誉会長
和歌山県立医科大学名誉教授

生涯学習開発財団認定コーチ。
1970年関西医科大学卒業。1978年京都大学大学院修了。麻酔科医として関西医科大学附属病院、京都大学医学部付属病院、京都大学医学部助教授(麻酔学教室)などを経て、1991年に和歌山県立医科大学教授(麻酔科学教室)。2006年同大副学長、2008年附属病院長を歴任する。医療界にコーチングを普及させたいとの思いから2006年に臨床コーチング研究会を立ち上げ、2015年まで同会会長を務める。現在も院長経験者として全国各地で臨床コーチングに基づくマネジメントの啓発・講演を行っている。

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