MBA流クリニック経営

第6回コーチング:『よりよい医療現場づくりのヒント~実践!臨床コーチング』
〜NO MORE 組織崩壊! 成果と部下の成長をもたらす院内環境構築のためのマネジメント術〜

畑埜クロスマネジメント 代表
臨床コーチング研究会 名誉会長
和歌山県立医科大学名誉教授
畑埜 義雄

第5回ではチーム医療の概念が根付きつつある臨床現場、病院組織で求められるリーダーの姿、「コンセンサス型リーダー」を紹介しました。

しかし、リーダーに求められる役割はそれだけではありません。役職が上がり、率いる部下の数が増えれば、「組織の長」としてマネジメントに取り組む必要も生まれます。

マネジメントとは難解なものだと思われていますが、「相手の自主性を重んじる」というコーチングの基本に立ち「いかに人を動かすか」という視点で捉え直すと、とてもシンプルにリーダーのとるべき姿勢が見えてきます。

本稿で学ぶポイント

  • 優れたマネジメント能力を持ったリーダーは、何よりも自分をよく知っている
  • 組織活性化の鍵を握るのは<中間のリーダー>たち
  • 「コンセンサス型リーダー」に求められる姿勢は「SOAK」!

【ケース編】トップリーダーに求められる「トップ」としての姿勢

どの立場のリーダーであれ一貫して「コンセンサス型リーダー」でなければいけませんが、トップにはトップの、中間管理職には中間管理職の、現場リーダーには現場リーダーの姿勢というものがあります。

私が実際にコーチとしてコーチングを行ったB病院の事例を見てみましょう。この事例は診療科という病院組織のある一部分が抱える問題を取り上げていますが、決して診療科特有の問題ではありません。大きな組織は小さな組織が集まって構成されるもの。登場する人々が病院長や事務長、各病院幹部に置き換わっても成立します。

【背景】

B病院にある某診療科は科内の雰囲気が悪化しており、若手の医員が2人も退職。組織崩壊の危機にありました。科の構成は部長、副部長、主任2人、研修医や非常勤も含む一般職が10人となっています。

管理職や監督職に何か問題があるのではないかと思われますが、部長、副部長、主任2人からは自分にとって都合の良い話しか挙がらず、科の置かれている状況は、科外からではわからなくなっています。

副部長と主任2人を集め同時にヒアリングを行ったところ、部長からは常に何の相談もなく指示や命令が下され、3人はただそれを一般職に伝えるだけの伝達役となっていることがわかりました。診療科での仕事に対する満足度を確認しても、「ほとんど満足できておらず、不満に感じることが多い」という声が挙がりました。これは一般職でも同様です。

しかし3人は中間に位置するリーダー(中間管理職)として具体的に部長に働きかけているわけではなく、「部長に何を言っても聞き入れられない」「責任は部長にある」とし、一般職と一緒に愚痴や不平・不満を述べているだけです。

部長はこうした科内の状況をほとんど把握できていないまま、スティーブ・ジョブズのようなカリスマリーダー論を説くリーダーシップの書籍を読み、自分が理想とするリーダー像を思い描いています。

「リーダーには企画力や実行力が必要だ」と考えていますが、実際に自分にはどのような資質・能力があり、何が不足しているのかはわかっていません。

科内に閉塞感や停滞感が蔓延していることは感じており、打開しなければいけないと考えていても、副部長や主任たちと議論・討論をして課題を共有することはなく、彼らを飛び越えて直接一般職に指示を出したり、コミュニケーションを取ろうと図ります。トップと中間、一般職の関係性はますます冷え込み、科内でのコミュニケーションギャップも広がる一方です。

【問題点】

根本的な問題として、部長、副部長、2人の主任のいずれもが部下に信頼され、高いモチベーションを持って主体的に仕事に取り組ませることができる「コンセンサス型リーダー」ではないという点が挙げられます。なぜそれが問題なのかは、第5回でご説明した通りです。

さらにB病院の事例ではリーダーの立場の違い、つまり一組織の長(トップリーダー)である部長が抱える以下のような問題が、診療科全体の閉塞感・停滞感を招いているのです。

  1. 自身の能力や役割を適切に認識しておらず、マネジメントができない状況に陥っている
  2. (意図していなくても)中間リーダーとの向き合い方が適切ではない。
    具体的には……
    1. 1) 副部長や主任たちも一般職にとってはリーダーであるという意識を持たせることができていない(中間リーダーを飛ばして直接現場に介入している)
    2. 2)1)のような行為の積み重ねが中間リーダーたちに不安感を与え、モチベーションの低下を引き起こしている

【理論編】トップリーダーは部下に何を供与すべきか

組織を運営する立場にあるトップリーダーは、組織活性化のためにビジョンを示し、部下とのコミュニケーションを図り、適切なマネジメントに取り組む必要があります。

これらの要素をリーダーシップ論やコミュニケーション論、マネジメント論などから体系的に学ぶこともできますが、これまでにご紹介したコーチングのスキルやマインド、「コンセンサス型リーダー」としての振る舞いにも、トップリーダーのあり方が含まれています。

【組織を活性化させるマネジメントの心得】

①自己認識能力の高さはマネジメント力の高さ

第5回において、「コンセンサス型リーダー」は部下の価値を認めモチベーションを高めるためにも、自らすべての仕事に取組むのではなく、部下に助けを求めるという形で高い成果を上げるべきだと紹介しました。

この姿勢はトップリーダーであれ、中間リーダーであれ変わりませんが、「誰(どの部下)に助けを求める(どのような能力が必要な仕事を頼む)のか」、つまりマネジメントは当然ながらトップリーダーが行わなければいけません。そこで重要になるのが、リーダーの自己認識能力です。

部下のことさえよくわかっていれば問題はないのでは、と思われるかもしれません。しかし、自分の強みが何なのか、リーダーとしてどのような能力を発揮することが求められているのかをリーダー自身が理解していなければ、いくら部下からの信頼を得ても成果が伴わない状況に陥ります。

ひとつ、単純化した例で考えてみましょう。一般的なリーダーシップ論では、リーダーには「企画力」「人間関係構築力」「影響力」「実行力」のいずれかが求められるとされます。ある組織のトップリーダーは高い「企画力」を有しており、やはり「企画力」のある中間リーダーに助けを求めたとするとどうなるでしょう。実行されないままの企画が山積していく結果になりかねません。

Tips

自己認識の助けとなるのが、長年リーダーシップ研究に取り組む米国ギャラップ社が開発した「StrengthsFinder」というテストです。設問に回答することでリーダーに必要とされる「企画力」「人間関係構築力」「影響力」「実行力」のいずれが長けているのか、自身の強みがどこにあるのかを把握することができます。

『ストレングス・リーダーシップ―さあ、リーダーの才能に目覚めよう』『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう 新版 〈ストレングス・ファインダー2.0〉』

ギャラップ社のウェブサイト上で有料版が公開されているほか、2009年に発行された『Strengths Based Leadership』という書籍(※)では簡易版が掲載されています。

(※)日本語版では『ストレングス・リーダーシップ―さあ、リーダーの才能に目覚めよう』や『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう 新版 〈ストレングス・ファインダー2.0〉』(いずれも日本経済新聞出版社)などがある

②トップリーダーが中間リーダーに供与すべきポイント=「SOAK」

組織活性化の鍵を握るのは中間リーダーです。組織をピラミッド型と考えるならば、どれほど素晴らしい上部構造が存在しても、中間層が薄ければそこから崩壊していくのは自明でしょう。

トップリーダーが「コンセンサス型リーダー」として部下である中間リーダーたちを精神的にも組織的にも安定させることで、中間リーダーたちも現場の安定した運営・活性化を実現することができるのです。

中間リーダーを安定させるためにトップリーダーに不可欠である、と私が考えているキーワードが「SOAK」=「信頼関係(S)、思いやり(O)、安心(A)、希望(K)」です。

「信頼関係(S)、思いやり(O)、安心(A)、希望(K)」

「S」=信頼関係

信頼関係を築くうえでコミュニケーションは重要ですが、トップリーダーは誰とどのようなコミュニケーションをとるのかを慎重に考えなければいけません。中間リーダーを無視して一般職に指示・命令を出すのは、彼らの価値を認めていないことになります。中間リーダーも、「現場のことをいちいちトップリーダーに伝えても意味がない」と考え、重要な問題や課題が見えなくなってしまうかもしれません。

また、一般職から見れば、中間リーダーもトップリーダーも自分たちの「リーダー」です。そのリーダーたちに一体感がなければ、一般職のモチベーションも低下してしまうでしょう。

トップリーダーに求められるのはコミュニケーションをとることだけにとどまらず、中間リーダーたちが一般職員と十分なコミュニケーションをとれる職場環境を構築することなのです。

「O」=思いやり・「A」=安心

部下の価値を認める、気にかけるという姿勢は「コンセンサス型リーダー」の条件であり、「部下が何を考えているのか」「なにをやりたいのか」について「承認」「傾聴」「質問」といったコーチングスキルを活用して聞き出すことは重要です。

しかしトップリーダーはそれだけにとどまらず、部下を思いやり、安心させる具体的行動を取ることも求められます。立場や役職によって何をすべきか異なりますが、「教育・研修機会を用意し中間リーダーを支援する」「適切な権限移譲を行い、中間層に一定の裁量権を与える」などが考えられます。

ときには、ハードワークが続く診療科の疲弊状態を打破するため、病院長や事務長、他科の部長に対し無理のない体制をとるよう求めることも必要になるかもしれません。
部下のことを思いやり、安心させるためにトップリーダーが戦うことも厭わないのか。こうした姿勢を中間リーダーや一般職は見ています。

「K」=希望

トップリーダーだからこそできる最たるものが「ビジョンを明確にする」ことでしょう。優れた経営者は明快な経営理念・方針を掲げることで社員のモチベーションを向上させ、仕事や会社への希望を与えます。

診療科で経営理念を掲げるわけにはいきませんが、組織のレベルや規模に応じて(実現可能ではあるが)大きな目標を提示することはできるでしょう。「高い治療成果を上げている他病院を目標にする」「国外の有力な学会で研究結果を発表する」といった目標があることで組織全体の一体感が醸成されます。

ただし、組織にとっての「敵」を設定し、敵に打ち勝つことを目標とするのはおすすめしません。万が一にも同じ病院内で他の診療科を「敵」と見なすようなことがあれば、単なる派閥争いです。また、こうした対立意識は往々にしてリーダーの個人的な感情やプライドに起因することが多く、部下のモチベーション向上には何ら寄与せず、疲弊感を与えるだけです。

あとはコーチングの実践あるのみ

コーチとしてさまざまな病院を見ていると、共通する問題として「リーダーの立場にある人のリーダーシップが欠如している」と感じることが少なくありません。

医療現場において適切なリーダーシップ教育を受ける機会が少ないためであると考えられますが、このことがしばしばトップリーダーと中間リーダーの齟齬やギャップを生みだし、組織は機能不全に陥り、一般職はやりがいを感じられず離職していくという悪循循環へとつながっていきます。

リーダーの能力を高めつつ、組織内でリーダー層の一体感を高めるためにはどうすべきなのか。その答えがコーチングのスキルとマインドに基づく「コンセンサス型リーダー」というリーダー像であり、「コーチング流マネジメント」という方法論です。

リーダーとは肩書や地位だけでリーダーと認識されるわけではありません。リーダーたる姿勢、振る舞い、能力が伴わなければ、ただ「偉そうにしているだけの人」になってしまうでしょう。そうなりがちとも言える「エンペラー型リーダー」にも、プロジェクトの立ち上げ時など、パワーを必要とする局面ではその力が大きく寄与する場合もあります。しかし、いまや、チーム医療の現場では、いまや「コンセンサス型リーダー」による適切なリーダーシップと、それに基づいたマネジメントが求められていることを、あらためて意識してみてください。

そして、実践を重ねて訓練し、「コンセンサス型リーダー」としての「コーチング流マネジメント」を身につけ、どのような立場でも卓越したリーダーシップを発揮する優れたリーダーを目指してください。

<「コンセンサス型リーダー」による「コーチング流マネジメント」

筆者プロフィール

畑埜 義雄 氏

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畑埜クロスマネジメント 代表
臨床コーチング研究会 名誉会長
和歌山県立医科大学名誉教授

生涯学習開発財団認定コーチ。
1970年関西医科大学卒業。1978年京都大学大学院修了。麻酔科医として関西医科大学附属病院、京都大学医学部付属病院、京都大学医学部助教授(麻酔学教室)などを経て、1991年に和歌山県立医科大学教授(麻酔科学教室)。2006年同大副学長、2008年附属病院長を歴任する。医療界にコーチングを普及させたいとの思いから2006年に臨床コーチング研究会を立ち上げ、2015年まで同会会長を務める。現在も院長経験者として全国各地で臨床コーチングに基づくマネジメントの啓発・講演を行っている。

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