MBA流クリニック経営

第1回コラム:怒鳴り散らす患者さんの本音
~「気配り」がクレームの芽を摘む~

株式会社 エンゴシステム
代表取締役 援川 聡

「患者さんへの対応が年々難しくなってきていると感じています。」このような相談をよくドクターから持ちかけられます。医療現場への苦情については、東京都で把握されているだけでも年間千件前後※)に上ると言われ、潜在的な件数を加えると膨大な数に上り、中には治療行為や対応に対して患者さんから逆恨みされ、傷害事件に発展したケースを耳にしたことがあるかもしれません。

ここで、トラブルを引き起こす患者さんの本質について知っておくために、実際に起こった二つの事例を見てみましょう。

ケース1:

患者Aが診察後、受付職員Bに「C先生にはもう診てもらいたくない。」と言ってきた。「どうしてですか」と尋ねると「こちらの話をろくに聞かず、薬を出すからと説明もなしで追い出した。こんな診察内容では治療費は払わないからな。あんな医者辞めさせろ。」と興奮して怒鳴りだした。受付職員Bは対応に困り、目をそらしてしまい、さらにその態度に患者Aが激怒し、「なんだ、その態度は。責任者を出せ。」と大声でわめきちらした。

ケース2:

患者Aは、常日頃から外来受付の順番だけ取っていなくなり、突然戻ってきて文句を言うことがあった。今日は「あんな受付辞めさせろ。」とかなりの剣幕で怒っている。受付職員Bの言い分は「一度お名前を呼んだが、その時は姿が見えなかった。順番が変わり、戻ってきたら大事な約束に遅れるから早く診察してほしいと言われても対応できない。」というものだった。患者Aの言い分は「大事な約束に遅れると言っているのに、親身な態度が受付Bにはなかった。」というものだった。

事例からも分かるように、患者さんの怒りの矛先は、「診察の結果」や「順番を後回しにされた」ということなのかもしれませんが、それよりむしろ「話を聞く姿勢を示さない医師」や「誠意を示さなかったスタッフの態度」に向けられているのではないでしょうか。

患者さんは、自身や家族の健康に問題が生じたとき、医療に対して過大なまでの期待感を持ってしまうものです。思い通りに良くならない症状に対してナーバスになる。こうして追い込まれた状況の患者さんに対し、パソコンの画面ばかりを見ながら患者の声を聴こうとしない姿勢や、何気ない一言に怒りを爆発させてしまうのです。
私たちは気付かないうちに患者さんの感情を逆なでしているかもしれない。まずこのことを医療現場は意識することが大切です。

大事件には至らないにせよ、病院運営に支障をきたしかねないトラブルはどこにでもある話で、今や医療機関にとってクレームに対する危機管理は、顧客・患者満足度向上の取り組みと併せて不可欠なものとなっています。

大病院のように警察OB駐在させた“院内交番”で警備を強化するケースも増えていますが、そこまでしなくとも日頃の心がけと備えでクレーム被害は防ぐことができます。

それは「気配り」をすることです。

職員の一人ひとりが患者に対して気配りをすることで、患者満足度は向上し、トラブルやクレームは減少します。「今日どうされました?」などの思いやりのある一言や、「お待たせしました」などの声かけ・挨拶はトラブル防止の特効薬であり、気配りは職員の護身術ということです。

「患者満足度」を向上させれば「危機管理」にも強くなります。さらにトラブルやクレームを排除することができ、夢の医療機関実現へと近づくのです。

※)平成27年度東京都「患者の声相談窓口」実績報告より

筆者プロフィール

援川 聡

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株式会社エンゴシステム
代表取締役

大阪府警OB。元刑事の経験を生かし、多くのトラブルや悪質クレームを解決してきたクレーム対応コンサルタント。2002年「困難なクレームを解決し、企業の危機管理を援護する」をモットーに(株)エンゴシステムを設立。クライアントの“相棒”としてリアルタイムでサポートする傍ら、講演や執筆活動などを通して様々な機関に解決方法・リスクマネジメントのノウハウを伝授している。事例を盛り込みながらの講演は迫力に満ち、「説得力が違う」と聴講者からも絶大な信頼を得ている。