MBA流クリニック経営

第4回:「ライフサイクル理論から見るクリニック経営のポイント」
~成長期のクリニック経営:医院拡大の核となる優秀な人材を獲得するには~

船井総合研究所 田熊考治氏

成長期に差し掛かったクリニックは、その時機を捉えた手をタイミングよく打っていく必要があります。
クリニックは、病院に比べると、スタッフ1人の占める影響力が大きく、採用に失敗すると成長の足かせにもなりかねませんので、スタッフ採用は疎かにせず、しっかり取り組む必要があります。
今回は、事業が拡大路線に入ったクリニックがタイムリーに優秀な人材を採用し、成長路線を維持するケースをご紹介します。

本稿で学ぶポイント

  • 成長期にタイミングよく人材獲得を行う重要性を知る
  • 求職者に「自院を選ぶ決め手」を示す
  • 募集をかける時点で、離職を防ぐ対策は始まっていることを理解する

【ケース編】スタッフの応募がさっぱりのクリニックが、10倍の応募者数を獲得する

優秀なスタッフを採用するためには多くの応募者を獲得する事が前提となります。これは、資金が潤沢で体制の整ったクリニックだけができることではなく、小規模クリニックでも工夫次第で十分可能なものです。本ケースでは、その事例をご紹介します。

【クリニックの背景】

開業後、ようやく軌道に乗り始め、患者数も増えてきたところで、いよいよスタッフ増員が必要な内科系クリニック。院長と非常勤看護師、受付・医療事務スタッフ2名体制では回らなくなり、常勤の看護師と受付スタッフの応募を進めていました。
しかし、さまざまな媒体で募集をかけても、月に数人程度しか応募が無い状況でした。患者数も増えている中、職員も疲弊し、院長も焦り始めていました。派遣会社や人材紹介なども当たり始めましたが、やはり今後の採用を考えると、自院で応募数を確保し、自前でスタッフ採用ができる力をつける事が、優秀な人材を獲得するだけでなく、採用コストや人件費を抑えていく上でも重要との認識でした。

【問題点】

このクリニックでは、開業当時から求人広告サイトに掲載する、ハローワークに求人票を出すなど、一通りの対策は行ってきていましたが、月間の応募者は1~2名という燦々たる結果でした。
このクリニックが提供する情報には、求職者にとって「その医院を選ぶ決め手」となりえる要素はなく、求職者視点からみると、「自分はこのクリニックでどのように活躍する事ができるのか」という具体的なイメージが持ちづらいものでした。

【取り組み】

そこで求人広告で、自院で働くメリットを明確にすることから始めました。しかし経営方針は実質形骸化しており、経営理念を訴求したところで、それが応募者にとって“働く決め手”になるものではありませんでした。

経営理念に関しては、改めて日頃の院長先生の取り組みを再度整理しました。また、スタッフ1人1人に当院の魅力や働きやすいと感じる点をヒアリングし、それをまとめたものを先輩職員のインタビューとして掲載し、自院の魅力がより伝わる形を取って採用広告に打ち出しました。
同時に、給与や賞与、各種保険などの待遇面も周辺の競合と比較して遜色がないかを検討しました。加えて、採用専用サイトをあらたに開設し、PPC広告(Pay Per Click広告)やIndeed等、今まであまり力を入れていなかったWEB広告を活用し、採用サイトの閲覧者数を増やす取り組みを進めました。

【成果】

以上の取り組みの結果、多い月には20件以上の応募と、採用候補者の申込数は10倍になりました。その結果、多くの応募者の中から、更なる成長へ力となりそうな経験者を選定することができました。かくして、このクリニックでは、成長局面の重要な時期を、優れた人材リソースを獲得することで無事に乗り越えることができたのです。

経営とは生もので、タイミングよく成長の手を打っていき、その勢いにうまく乗る事が何より大切です。一方で、そういった重要な時機を逃すと、再度の成長軌道に乗せるには、さらに大きな努力を要するものです。このクリニックでは、成長期に突入した際に、優秀な人材の確保と定着に成功したことで、滞りなく成長路線を描き続けています。

【理論編】自院の経営理念を実現する人材を獲得するセオリー

今回の事例のポイントは、採用にあたりクリニックの経営理念や魅力的な部分を棚卸し、明確にした上で、それを広く伝えたという点です。今回は、効果的な採用を進める上での4つのポイントを紹介します。

  1. ① 経営理念を明確化し、伝え、共感できる人物に応募してもらう
  2. ② 求める人材やスキル要件を明確化にし、活躍できる人物像を具体化する
  3. ③ 働きやすい環境であること、成長できる環境である事をアピールする
  4. ④ 近隣クリニックの取り組みに対し、待遇や施設の特徴等、明確な差別化ポイントを提示する

図1:応募者獲得のためのポイント

では、図1に示す4つの視点について詳しくご紹介します。

1、応募者に経営理念を伝える

効果的に採用を進めるポイントは、当シリーズ第一回でもその重要性について述べた経営理念の明確化です。ケースで紹介したクリニックでは、形骸化していた経営方針を見直すことによって、クリニックの成長に必要な人物像を描くことができました。求職者側にも、どのような人材が活躍できるのかが的確に伝わり、結果として「医院を選ぶ決め手」となったのです。
このようにして応募してほしいターゲット層を明確にして募集をかければ、選考コストも効率的なものとなります。さらに雇用後のミスマッチを防ぎ、離職による損失を回避することも出来ます。

また、経営理念は、応募者にとって共感できる言葉で伝える必要があります。漠然とした概念的な内容だけでなく、日々の行動や心がけなど、具体的な内容の方が応募者も共感できます。また、スタッフの仕事のやりがいなどに言及することで、日頃の働きに目を配り、良好な職場環境の維持にも熱心であることを伝えることができます。

【経営理念の事例】

2、求める人材の人物像やスキル要件を明確にする

クリニック側も「やる気がある人」「協調性のある人」と、抽象的なイメージしか持てないまま選考を行うと、後に「果たしてこの人を採用して良かったのだろうか」と後悔することになるかもしれません。
従って、“こういう方に来てほしい”と
具体的に提示することが望ましいです。こういった情報からは、経営理念や院長先生のスタッフへの姿勢も感じる事ができ、求職者はより安心して応募に進む事ができます。

【求める人材の人物像募集の事例】

3、働きやすい環境であること、サポートを行う事をアピールする

求職者は、果たして自分はこのクリニックで自分の強みを生かせるのか、あるいは、自信がない部分について学びや成長があるのか、働きやすい職場だろうかかという期待と不安の入り混じる中で就業先を選定します。
従って、先輩職員のリアルな体験談は応募する上での大きな後押しとなります。
また、職場環境が働きやすい、先輩のサポートがありそう、一日どんな過ごし方をするのか等、職場がイメージできる情報を掲載することも重要です。

【職場イメージ・サポート体制などの事例】

4、自院の物理的な差別化ポイントを明確にする

アクセスの良さ、フレキシブルな勤務時間、最新の医療機器や治療方法、研修機会等、医院の魅力を存分にアピールしましょう。
 例えば、駐車場・駐輪場の完備、シフト勤務や年間休日日数、最新の医療機器や治療方法を謳う場合は、それらを取り扱うためのサポートがあるか否か等、働きやすさは定着を促すので、疎かにしてはならないところです。

以上、採用時に応募を増やすコツをご紹介しました。自院の成長に資するスタッフを採用する上でご参考にしてください。

■振り返りのポイント

以下の項目で採用情報をチェックしてみてください。

【チェックリスト】

  • 経営理念は明確に伝わりやすい言葉、院長自身の言葉で表現されていますか?
  • 求める人物像について具体的に伝わる内容になっていますか?
  • 入職後の働くイメージがわかるような情報は掲載していますか?
  • 競合との差別化ができていますか?

筆者プロフィール

田熊 考治

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株式会社船井総合研究所
医療支援部 チームリーダー

入社以来、歯科・矯正歯科、医科では耳鼻科・小児科・美容外科などクリニックを中心とした医療業界のコンサルティングに従事。
現在は内科、心療内科、耳鼻咽喉科などの医科診療所に特化したコンサルティングを行っている。
クライアントの医院規模は1ドクター1スタッフにて運営する医院から、6名のドクターを要する大規模医院までさまざまである。
「一過性でない永続する強い医院作り」をテーマに、医院の現状に即した、具体的かつ即実践可能な提案がクライアントからの信頼を得ている。