MBA流クリニック経営

第5回:「ライフサイクル理論から見るクリニック経営のポイント」
~売上が高止まり、あるいは低迷し始めた時に考えるべきこと
:成熟期のクリニック経営の打ち手を考える~

船井総合研究所 田熊考治氏

クリニックを長らく経営していると、いずれ患者数が高止まりをし、頭打ちになる時期が来ます。これは、クリニックのライフサイクルで言いますと、成熟期に当たりますが、この時期に差し掛かっているクリニックも多いのではないでしょうか。一見、安定した経営状態でよい事と認識されるかもしれませんが、患者ニーズや地域の環境は刻一刻と変化し、新しい競合も次々と現れ、その安定は長い目で見ると一瞬という事もあり得ます。
第5回は、成熟期に差し掛かったクリニックにおいて、どのように課題を捉え、どのような打ち手があるのかをご紹介します。

本稿で学ぶポイント

  • 売上が高止まりする成熟期に直面する経営課題への理解
  • 成熟期における効果的な打ち手

【ケース編】ピーク時1日患者数60人、新患数月70名が、1日患者数が30名、新患数月20名まで減少。現状を正しく把握することから改善策を見出し、過去最高の患者数を達成

【クリニックの背景】

A県の主要都市の一つに所在する消化器内科系クリニックは、開業後15年程度経つ老舗のクリニックです。地域での評判も良く、ピーク時には1日患者数が60人~70名、月当り新患数が70名もあり、繫盛していました。診療体制においては、当時超音波診断装置や上下内部内視鏡、エコー等の最新の医療機器を備え、地域においては充実した存在感のあるクリニックでした。
しかし、開業して15年が経過したころより、徐々に患者数が減り始め、ここ数年は1日患者数が30名を下回り、新患数が月20名にまで減少しました。将来さらに経営環境が変わる事を考えると、いずれ存続そのものが危ぶまれることが目に見えている状態でした。

【問題点】

クリニックを取り巻く環境として、同市内に消化器内科を併設したクリニックが新たに数件開業したこと。また、クリニックの近くに大きな幹線道路が開通した事などもあり、一部のエリアの患者さんは、幹線道路を挟んでのアクセスとなり、クリニックへの往来が多少不便になった事等が主な原因と考えられました。
このクリニックの院長は地域では患者数の多いクリニックとして成功しているとみられており、院長先生自身も自院は順調で将来は安泰だと考えていました。従って、前述のようなクリニックを取り巻く環境が刻一刻と変化するなかでも、経営や集患策については、長らく取り組んでいる事をルーチンとして取り組んでいるだけの状況でした。それら取り組みは、過去の経営環境ではうまく機能していたのでしょう。しかし、環境変化がある一定の閾値を超えた時点で院長先生の経営は効果的なものではなくなったと推察されます。

【改善策】

このクリニックの立て直しを図るうえで、診療圏分析を通し既存患者さんのエリア特性を再確認するとともに、広告媒体ごとのコストパフォーマンスを計測し、広告媒体の見直しと広告内容の見直しを行いました。

  • クリニックの一次診療圏(既存患者のうち60%が来院している範囲)、二次診療圏(既存患者のうち80%が来院している範囲)におけるエリアの特徴を分析。
  • 媒体ごとのコストパフォーマンスを計測し、費用対効果の悪い媒体への広告出稿を停止し、費用対効果の高い広告に集中。
  • エリア特性に合わせてターゲットとする患者さんを絞り込み、広告内容を見直し。
診療圏分析結果:

一次診療圏のエリア特性として、マンションやアパートの多く、核家族あるいはDINKs(夫婦共働き子無し世帯)が多いエリアであり、したがって、住人の転居が多いことがエリアの特徴として再確認できました。エリア特性から想定されることとして、患者さんの入れ替わりが多いことから、新しく転居してきた患者さんを中心に新患獲得に重きを置く事にしました。またそれら患者さんはインターネットの利用度も高い事が想定され、WEB広告が効果的であると推測しました。

広告見直し策:

広告見直し前は、路面看板、電話帳、WEBの3つの媒体を用いて集患していましたが、それらを以下の通り見直しました。

  • 年新患が4~5名しか来院がなかった電話帳(年広告費12万円程度)を取りやめ。
  • 年10名程度しか来院がなかった路面看板(年広告費60万円程度)を取りやめ。
  • ターゲットとの親和性が高く、来院患者数が伸びていたWEBに費用を集中的に再分配。
WEB上での訴求ポイントの見直し:

院長先生の専門分野である消化器内科でも、特に多い疾患に関し、原因、病名、診断方法、治療法等の詳細をWEBに掲載し、新規に来院する患者さんがクリニックへの信頼感や安心感を高められるコンテンツを拡充しました。

以上の診療圏分析に伴う患者さんのターゲットの絞り込みと広告媒体・訴求内容の見直しの結果、当クリニックは、新患数はピーク時を超える月80名まで、それに伴い1日患者数も60名まで回復しました。

【理論編】ターゲット患者を明確にし、無駄な広告への予算配分を見直す

成熟期に売上が高止まりあるいは減少傾向に転じた場合、その原因を客観的につきとめ、原因に対して、効果的な打ち手を打つ必要があります。

【患者数が減少するには必ず理由がある】

患者数が減っていく場合、必ず何らかの原因があります。よくあるケースとしては、近隣に優れた同科目のクリニックが開業するという事があります。競合のレベルによりますが、新規開業したクリニックの影響で、患者数が3~4割程度減少した、というケースもあります。
次に、スタッフの接遇上の問題です。例えばこれまで頼りしていたベテランの受付スタッフが辞め、新しく採用した受付スタッフの接遇が悪く、コミュニティで影響力を持った患者さんが不満を持って離反をし、それに続いて他の多くの患者さんが離反していくケースもあります。悪い事に、接遇の問題に関し、院長が気付かないケースが多々見られます。
その他として、増税が行われたなどの経済的理由から患者さんが受診を抑制する、昨今の新しい診療技術や治療法、新薬等に関心が薄く、最近のリテラシーの高い患者さんの満足が得られず離反する等のケースも見られます。
それから、今回のテーマで取り上げる、従来効果的であった広告が時間の経過とともに効果的でなくなることで、新患が減り、結果として総患者数が減るという現象も往々にして見られます。広告を見直すポイントはいろいろありますが、今回は“診療圏分析”という手法でターゲットとなる患者さんを分析・整理した上で、その患者さんたちに対する効果的な広告の打ち方について考えてみたいと思います。

【自院のターゲットとする患者さんがどんな患者でどこから来ているのかを知る】

自院のクリニックの患者さんが、どこから来ているのかを十分把握していますでしょうか。診療圏分析を通し、エリア特性を明確するとともに、来院患者さんの特性を明らかにする事で自院の強みが見えてきます。

図1:診療圏内分析イメージ
地図上のクリニックは架空のものです

診療圏分析を行うことで明らかにできる事は多々ありますが、主に以下のようなものがあります。

集患エリアとして最も重要な一次医療圏(既存患者のうち60%が来院している範囲)の特性は何か?

未婚女性が多く集まる街、中年男性が多く働いている町、ファミリー世帯が多い町、高齢者が多い町、借家やマンションが多い町、外部から多くの人があつまる商業地やビジネス街等、エリアの特性がわかります。その特性により、注力すべき患者サービスは大きく異なってきます。
例えばですが、商業地やビジネス街で忙しい現役世代を主な患者ターゲットにする場合、キャンセル対策やオンライン予約等が効果的です。また、未婚女性等の若者が多い町でその層をターゲットにする場合、安心して相談ができることや患者さん一人ひとりに丁寧に対応すること等を中心として訴求する等が考えられます。自院がターゲットとするエリアを代表する患者層を中心に据え、患者サービスを展開する事がポイントです。

二次医療圏(既存患者のうち80%が来院している範囲)の患者さんが、わざわざ遠くから来院する理由は何か?

わざわざ遠くから患者さんが来ている場合、それにも理由があります。長年先生を主治医としているからという事の他に、他のクリニックより待ち時間が短いから、あるいは、先生の得意な診療技術に信頼を寄せているから、スタッフの対応がよく、予約変更やちょっとした患者さんの都合に関して柔軟に対応してくれるから、近隣の商業施設に移動する途上にあり便利だから、ホームページで検索して印象が良かった、自宅近くの待ち時間の長いクリニックより遠くても待ち時間が短くすぐ診てもらえるので等、理由は様々です。重要な事は、不便をあえて承知で来院してくださる患者さんの声に、クリニックを成長させるヒントが往々にしてあるケースがありますので、それを見逃さないようにすることです。

図2:エリア特性・自院の患者特性からプロモーションを見直す

【エリア特性・自院の患者特性からプロモーションを見直す】

前述のようにエリア分析と合わせて既存患者さんを分析することにより、エリアの特徴に応じたサービスの打ち出し方とプロモーションの方法が見えてきます。本稿で紹介した消化器内科クリニックの事例では、住民の入れ替わりが著しいエリアに位置していることから、固定患者の維持より、新患の獲得が一層重要なエリアでした。また、現役世代が中心ということでインターネットの利用度も高く、WEBを通した集患は他の広告より一層効果的なエリアでもあることから、WEBを充実させる事に集中することで成果を挙げる事ができました。
当ケースのように、患者特性を知り、広告媒体を見直すことで、開業後年数が経っていても患者数を増やすことは可能です。WEBのみならず、自院やエリアの特徴に応じて、野立て看板など費用対効果をしっかりと図りながら、患者特性、エリア特性に合わせて活用することがポイントです。

■振り返りのポイント

近隣の患者さんの特徴を把握しましょう。

①課題の把握

②エリアの特徴と来院してもらいたい患者さんの特徴

③患者で活用する媒体と訴求内容

筆者プロフィール

田熊 考治

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株式会社船井総合研究所
医療支援部 チームリーダー

入社以来、歯科・矯正歯科、医科では耳鼻科・小児科・美容外科などクリニックを中心とした医療業界のコンサルティングに従事。
現在は内科、心療内科、耳鼻咽喉科などの医科診療所に特化したコンサルティングを行っている。
クライアントの医院規模は1ドクター1スタッフにて運営する医院から、6名のドクターを要する大規模医院までさまざまである。
「一過性でない永続する強い医院作り」をテーマに、医院の現状に即した、具体的かつ即実践可能な提案がクライアントからの信頼を得ている。