MBA流クリニック経営

第7回:「クリニックのコミュニティ・マーケティングを整える」
~競合クリニックの開院で大幅に減少した患者数を回復する~

株式会社ドクター総合支援センター
代表取締役 近藤 隆二

この回では、「コミュニティ・マーケティングを整える」というユニークな着眼点で、患者数を増やす方法をご紹介いたします。

本稿で学ぶポイント

  • コミュニティで満たされていないニーズを見出し、サービスに取り入れる

【ケース編】ワンストップニーズに応え、地域にうまく打ち出したことによって患者数が回復したクリニック

【クリニックの背景】

ある女性専門クリニックの話です。

お子さんからご年配の方まで、幅広い世代の患者さんの様々な体調の不良や症状に総合的に対応できるため、多くの患者さんから頼りにされています。開院以来10数年継続して受診している患者さんも多く、総合内科・婦人科・産科(無床)合わせて日々100名を越す多くの患者さんが受診されていました。

しかし、近隣に周産期医療を行う有床の産婦人科が開院したことにより、受診者数が70名程度まで減少しました。産科・婦人科の受診者が大幅に減ったのです。開院以来の大激震です。

院長先生は当初は動揺を隠せませんでしたが、幸いクリニックの財務状況は良好でした。そこで、腹を据えて根本的な対策を打つことにしました。しばらくは赤字を覚悟しなければなりませんが、この機会をチャンスと捉え、クリニックの経営を改善し、継続していくための根本的な対策を打って行動することにしたのです。

【問題点】

このクリニックの問題点は、女性の健康を総合的にサポートする診療スタイルが患者さんに伝わっていないということでした。院長先生の医師になった当初の専門分野は呼吸器内科でしたが、ご自分の人生を省みながら研究を重ね、診療分野を広げて女性の健康を総合的にサポートするという方針に変えていきました。しかし、このことを地域にアピールしなかったため、これまで受診してきた患者さんの中には、他の内科医院を受診した後にこのクリニックの婦人科を受診するというケースがありました。このクリニックならワンストップで診療が行えるにもかかわらず、これは患者さんにとって時間的・経済的に大変勿体無いこととなっていました。

【改善策】

そこで、このクリニックはそもそも女性の健康を総合的にサポートし続けることが強みであり、産科は全体の一部で本来の強みでないことから、産科は新たに開院したクリニックと棲み分けて先方で診てもらうと考え、本来の強みである女性総合診療という分野に注力をすることにしました。

そのことを地域に伝えるために、現状のHPのリニューアルを行いましたが、これだけでは自院がどのような診療を行い、どのように役立てているのかを十分に伝えることはできませんので、ブログに日々受診された患者さんの状況や診療内容、他の患者さんに伝えたいことなどを継続して書いていきました。それら多くの事例を見ることで、自院の診療のコンセプトを理解していただき、具体的な事例にマッチする患者さんに来ていただくよう試みたのです。

その結果、産科の患者さんは減ったままですが、院長先生の診療スタイルを知った別の内科医院や婦人科に通っていた患者さんや、女性総合診療を探していた女性患者さんを新患として獲得できたことが内科・総合診療系の受診の増加に繋がり、患者数を回復することができました。

【理論編】クリニックの本質的な価値を見極め、分かりやすく伝える

ご紹介したケースは、コミュニティ・マーケティングを整えることによって成果を得ることができた良い事例です。具体的に言うと、疾患ごとに別のクリニックに通っていた患者さんの不便を解消するサービスを見出し、そのメリットを患者さんに知ってもらう取り組みを行ったということになりますが、ここではどのクリニックでも実践できるコミュニティ・マーケティングを整える具体的な方法を解説します。

図1:クリニック経営に求められる3要素

【コミュニティを整えるとは】

これは自院を受診する可能性のある人、自院を受診すると良い人、自院とマッチする人はどのような人かを掘り下げて、具体的な姿を明確にするということです。つまり、どんな症状で困っているのか、どんな診療をすれば助かるのか、どんな雰囲気のクリニックを望んでいるのかなどを明らかにしていきます。これは現在受診している方々を観察したり、直接話を伺ったりするのも直接的な手段です。

また、コミュニティを整える作業には、近隣の医療機関の情報を把握することも含まれます。ケースで紹介したクリニックは、新設のクリニックにあえて患者の一部を譲り、自院の強みにフォーカスすることでそのマイナス分を取り返しています。次項で説明するマーケティングにも関係することですが、相手を知ることも、どのような診療サービスを展開するか見極めるための必要な作業となります。

【マーケティングの3要素】

コミュニティを明らかにした上で、その人々に対してマーケティングを行います。
ここで取り上げるマーケティングとは、次に述べる3つの工程に取り組むことを指します。

1.マーケティング(狭義)を行う、2.サービスを考える、3.営業を行う

頭の文字をとって「マ・サ・エ」とすると覚えやすいですね。

「マ:マーケティング」

マーケティング(狭義)とは、患者さんがどのようなことを望んでいるのかを明らかにすることです。これは先に書いたコミュニティを明らかにすることと連続しており、同時に自院の診療コンセプトや受診内容、特徴、強みも把握します。
ケース編で登場した院長先生は、別のクリニックの内科を受診した後にこのクリニックの婦人科を訪れる患者さんの不便を解消できる総合診療分野に注力することが、自院の強みであると考えました。
診療内容に限らずとも、子ども連れでも安心して訪れられるような待合室に設備があるとか、夜間や土日対応ができて平日の勤め人が利用しやすいなど、自院を受診することによって得られるメリットを考え付く限り挙げ、次に解説する自院が提供するサービス作りに反映させます。

「サ:サービス」

ここではマーケティングによって得られた情報にマッチするサービス(医療の内容だけではなくクリニック全体としてのサービス)を明らかにする、または作ります。事例では、新設のクリニックに産科を任せ、自院は女性総合診療という診療科を掲げ、「女性の健康について包括的に診ることができる」をサービスの柱としました。
また、既に現在の患者さんから自院の良いところや選ばれている理由を伺い、明らかにしていくこともサービスを整えることになります。現在の診療内容やサービスに対する患者さんの評価は自分ではよくわからないものですので、アンケートや直接お伺いすることで把握して、サービス内容に盛り込むことを検討してみてください。

「エ:営業」

さらにそのサービスをコミュニティの人々に営業します。営業というと押し売りのようなイメージを持つかもしれませんが、そうではなく、サービスの内容をわかりやすく伝え続けるということです。そのためには、患者さんが自分にマッチするクリニックを選ぶことができる環境を整えます。事例ではHPとブログを手段とし、リニューアルと定期的な更新作業を行っています。
このように自院にマッチして成果が出るようあらゆる媒体の利用を検討し、その方法に注力して継続していきます。

今回は患者数の低迷に陥ったクリニックの例を紹介しましたが、このようなタイミングでなくともコミュニティ・マーケティングを整える作業は可能であり、さらに選ばれ続けるクリニックであるためには、普段から取り組んでいくことが大切です。

次回は、このような活動を継続するためのチームの整え方について解説します。

■振り返りのポイント

以下の作業を行うことで、先生方のコミュニティ・マーケティングを整えてみましょう。

コミュニティで満たされていないニーズは何ですか?自院の強みを活かし、提供できるサービスは何ですか?その結果、自院のコミュニティ内での新しい役割はどうなりましたか?

以上

筆者プロフィール

近藤 隆二

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株式会社ドクター総合支援センター
代表取締役

2008年創業、2010年株式会社ドクター総合支援センターとして法人を設立。これまでに200件以上のコンサルティングと、50件以上の顧問契約を締結。
前職はファイナンシャルプランナーだが、お金の問題に留まらず、クリニック経営に関わる全てと、開業医のライフプランを含めた総合的なアドバイスができるゼネラリストとして、厚い信頼を寄せるドクターは多い。
温かい語り口で小さな疑問にも丁寧に対応。共に解決策を見出し、時には手厳しい指摘もする頼もしい存在として、今日も全国から多くの相談を受けている。