MBA流クリニック経営

第8回:「クリニックのチームを整える」
~多くの患者さんに選ばれながら崩壊の危機に瀕したクリニック~

株式会社ドクター総合支援センター
代表取締役 近藤 隆二

スタッフの接遇や勤務態度が問題で、続けて来院していた患者さんが来なくなってしまうケースがあります。人に係わる問題の故、頭を悩ますドクターもいらっしゃると思います。この回では就業規則を利用したチーム作りの秘訣を解説します。

本稿で学ぶポイント

  • スタッフに協力的に働いてもらうために、就業規則や外部の専門家をうまく利用する術を知る

【ケース編】業績の良いクリニックの裏で潜んでいた、常識から外れた風土組織

【クリニックの背景】

女性医師が経営する内科系のクリニックの話です。
女性の患者さんに絞って地道な診療を行い、小さいお子さんからご年配の方まで、患者さんの一生の健康を地道にサポートし続けてきたことで、毎日多くの患者さんに選ばれていました。待ち時間も長く、その解決に頭を悩ますほどですですが、収入も多く十分な利益も出ていました。
しかし、この業績の良いクリニックが崩壊の危機に晒されたのです。

【問題点】

その原因は就業のルールを曖昧にしたまま経営を続けた結果、スタッフが患者さんから見れば非常識とも思える行動を取り始め、診療に支障をきたし、通い続けていた患者さんが来なくなってしまったことにありました。

このクリニックは10数年前に院長先生と2〜3名の女性スタッフで開院しました。今は患者数の増加に伴い、スタッフの人数は当初の数倍になっています。早い段階で就業のルールを決めてスタッフに周知徹底する必要性があったのですが先送りにしてしまい、何かあったらその都度どうするかを決めていたり、特定のスタッフに仕事やマネジメントを任せっきりにしていました。そのようなことが長年にわたる習慣となったことからこのクリニックでしか通用しないルールが浸透し、規律や接遇マナーが一般常識とはかけ離れた職場になってしまったのです。

当時のクリニックの口コミサイトには次のようなコメントがきていました。

患者からの質問時にぶっきらぼうな返答をし、丁寧に説明する姿勢が見られなかった。

繁忙時間帯にスタッフの数が足りていないようだ。
通常であれば看護師が行っている作業を院長先生が行っているようで、待ち時間が長くなっている。
(後に勤務にあたっているはずのスタッフが無断外出していたことが判明)

スタッフ同士がにやにやと雑談しており、待合室の様子に気を配っていないようだ。

年配の患者さんに子どもと話すような口の利き方をしていた。

白衣のままコンビニに行く姿を目撃した。

受付終了に近づく頃、患者さんが残っているにもかかわらず、器具を片付け始めたり、カーテンを閉めたり、閉院の準備をし始めた。

これらのコメントは、スタッフの見苦しい姿を見たり、ぞんざいな扱いを受けるなどして不快な思いをしたリピーター患者さんや、子供連れの母親達によって投稿されたものでした。
その結果、経営難に陥るほど患者数が減ってしまいました。

【改善策】

これではクリニックの経営を正常に継続することは困難です。院長先生は医業を専門にする社会保険労務士に相談したところ、就業のルールを定めてスタッフに徹底することが大切だというアドバイスを受けました。そこで院長先生は就業規則を定め、そのルールを徹底するためにスタッフミーティングを開き、守れないスタッフには注意をするなどの活動をしていきました。
その結果、問題のあったスタッフは辞めていき、一年でメンバーは全員入れ替わりました。
現在は新たなスタッフと共に日々さらに良いクリニックになるべく努力をしているところです。

【理論編】ツールや外部の専門家をうまく利用して、院内環境を整える

就業規則とは、従業員に責任ある態度と規律ある行動を求め、持続可能な事業の発展を目指すためのルールです。これはルール制定者である経営者と従業員との「合意」に基づくルールであり、就業規則の専門家である社労士等の助言を得ながら策定するのが原則です。就業規則は、守らなければ罰則が与えられるハード・ローと(例:出勤時間)、守ることが望ましいソフト・ロー(例:接遇)があり、経営者と従業員はこの2つのルールを受け入れながら事業を展開することになります。(図1)

図1:就業規則の要素と効果的な運用のフレームワーク

【就業規則の役割 = 改善の機会を作るツール】

就業規則は組織の大小にかかわらず、人を一人雇用した場合でも作成する必要があります。なぜなら従業員の力を効率的に発揮させ、延いてはクリニックの業績を上げることにつながるからです。

事例のように、一部のスタッフの問題行動により職場全体のモラルが低下するケースは珍しくなく、このようなときは当人だけを責めたところでは本質的な解決にはつながりません。職場の規律を確保し、職務に集中できる院内秩序を保つためには、スタッフの自主性に任すのではなく、クリニックが主体的に改善策を講じていくことが求められます。

そこで活躍するのは就業規則です。

まず自院の就業規則の状況について、特に「チームを整える」ために、また身近なトラブルを防ぐために必要な項目を確認してみましょう。

No. チェック項目 点数
01 就業規則の策定には院長先生は関わっていますか? Yes 3No 0 点
02 専門家の助言を得ながら作成したものですか? Yes 3No 0 点
03 従業員の入職時に説明したり、周知するための取り組みを行っていますか? Yes 3No 0 点
04 適用する職員の範囲(正社員・パートタイマーなど)は明確になっていますか? Yes 1 点No 0 点
05 勤務開始時間、終了時間、休憩時間の規定はありますか? Yes 1 点No 0 点
06 残業は、院長・上司の指示により行う定めになっていますか? Yes 1 点No 0 点
07 休暇・年次休暇の取得方法について規定していますか? Yes 1 点No 0 点
08 勤務中の態度(対患者、対上司、対同僚)に関しての規定はありますか? Yes 1 点No 0 点
09 服装・化粧・髪型に関しての規定はありますか? Yes 1 点No 0 点
10 懲戒・解雇に関する事由を具体的に定めていますか? Yes 1 点No 0 点
合計点が10点以上
就業規則の内容・運用ともに良好な状態です。このまま定期的な見直しや従業員への周知に努めてください。
合計点が5点以上
問題発生時に十分対処できない可能性があります。就業規則の見直しをお勧めします。
合計点が5点以下
すでにスタッフに関するトラブルが発生しているかもしれません。この機会に就業規則を見直しましょう。

特にNo.1~3は就業規則が効力を得るために要となるところです。次からのチェック事項をご参考いただくことで、10点以上を目指してみてください。

【チェック1:院長先生が作成に関わっている】

すでに就業規則をお持ちの医院も多くあると存じますが、それでも勤怠管理・シフト管理などに苦労されている場合はないでしょうか。それは今ある就業規則がスタッフにとって使いづらく、院長先生にとっても管理しにくい内容になっていることが考えられます。開院当初に設定した就業規則が書式集にあるようなひな形のままや、条文にあまり手を入れてこなかった場合は、院長先生が確認しながらクリニックの実情に合った規則を作成する必要があります。

【チェック2:専門家と共に作成している】

就業規則の策定・見直しを院長先生だけで行うのは、専門性の観点からも時間的にもほぼ不可能です。労働基準法などの法律や医業経営に詳しい専門家の助言を得ながら一緒に作っていくことが一番良い方法です。

【チェック3:就業規則をスタッフに周知している】

ルールを遵守してもらうためには、スタッフにルールの理由や背景を理解してもらうことによって、ルールに対して納得感を得てもらう必要があります。入職時に確認合意を取るほか、定期的に全員で規則に対する認識合わせの機会を持つようにできれば理想的です。

スタッフにルールを守ってもらうことにより、院内環境は良くなります。まだ就業規則がないクリニックは早めに作り、周知徹底し活用することをお勧めします。

【専門家の意外な使い途】

しかし、慣れ親しんだ状況が急に変わり、改善できるチャンスをもらっても、ルールが守れないスタッフがいるかもしれません。
このような時は第3者、特に医業経営に詳しい専門家に入ってもらうことで解決につながる場合があります。

事例では社会保険労務士という院外の専門家に相談しています。さらに、新しく作った就業規則の説明会を専門家に開いてもらい、法律家あるいは専門家の観点で解説してもらうことで、規則の意義がスタッフに伝わりやすくなる効果を期待することができます。

【最後に】

院長先生が診療の傍らスタッフマネジメントに取り組むのは非常に過酷な上、医業経営では分からないことが多く、悩みやストレスを抱えてしまいがちです。それらを解消するために外部の力をフルに活用してみることも考えてください。解決策を共に見出すことで、スタッフが明るく前向きに働くクリニック作りに励んでいただければと思います。

筆者プロフィール

近藤 隆二

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株式会社ドクター総合支援センター
代表取締役

2008年創業、2010年株式会社ドクター総合支援センターとして法人を設立。これまでに200件以上のコンサルティングと、50件以上の顧問契約を締結。
前職はファイナンシャルプランナーだが、お金の問題に留まらず、クリニック経営に関わる全てと、開業医のライフプランを含めた総合的なアドバイスができるゼネラリストとして、厚い信頼を寄せるドクターは多い。
温かい語り口で小さな疑問にも丁寧に対応。共に解決策を見出し、時には手厳しい指摘もする頼もしい存在として、今日も全国から多くの相談を受けている。