MBA流クリニック経営

第11回:「スタッフを味方につける、受容と人間関係重視のリーダーシップ」

株式会社 マザーリーフ 代表取締役
榊原 陽子

クリニックのような小規模な組織では、他のスタッフに大きな影響を与えるリーダー的な存在の職員がいるケースは珍しくないのではないでしょうか。院長先生にとって、その職員が望ましいリーダーシップを発揮している場合、これ以上に頼もしい存在はありませんが、そうではない場合、扱いにくい職員として苦労されている場合もあるようです。そのような状態で何事もない場合もありますが、リーダー的な職員の言動があまりにも極端すぎる場合、経営に支障をもたらす場合があります。今回はリーダー的存在のスタッフを味方につけ、うまくチームマネジメントをするリーダーシップのあり方について解説します。

本稿で学ぶポイント

  • リーダーシップの機能は、「目標達成能力」と「集団維持能力」という2つの軸で評価できること。
  • クリニックのような小集団において、両者をバランスよく向上させるポイントがあること。

【ケース編】関係の悪化したリーダー職員と信頼を再構築

【クリニックの背景】

その院長先生は地元の国立大学医学部を卒業し、事務長(妻)の実家が開業する内科クリニックの隣に整形外科を開業しました。
院長先生は、まじめで素朴な人柄かつおとなしい性格で、怒鳴ることはおろか、スタッフに注意をすることもない穏やかなタイプの方でした。そのような先生の性格が裏目に出たのか、開業1か月を過ぎたころから、スタッフとの関係において問題が明るみになってきました。クリニックの中心的なスタッフが院長に対してネガティブな対応を取り始めたのです。
開業前に新規採用した40代のベテラン看護師のAは、開業準備にも長けていたことから、自然な流れでスタッフの中心となりました。しかし、Aは院長先生のいないところでの悪口が多く、その対象は患者さんに向けられることもありました。
リーダー格のAの言動は、同僚のモラルを下げ、自然スタッフ全員の患者応対も雑なものになってしまいました。

こうした状況により、患者からの苦情が増え、近所で悪い評判が立ったようです。開業直後にもかかわらず当クリニックは患者の伸びがストップしてしまったのです。

【問題点】

院長は、これまでこのような課題を改善したいと思い、Aに直接丁寧な患者応対をするよう指導したこともありましたが、その都度言い返される事から、Aを放任状態にしていました。これがクリニックのモラルを下げ、結果として患者数が伸び悩むことに繋がる根本的な原因だったようです。

院長先生は、当問題を解決する上で、外部のサポートを借りたほうが良いと考え、スタッフ管理や患者応対の改善を専門とするコンサルティング会社に調査を依頼しました。
このコンサルティング会社は、患者に扮した覆面調査員が、クリニックを受診しその際の受付の対応、看護師の対応、医師の対応、スタッフ同志の対応を中心に調査をし、フィードバックするプログラムを提供しました。

主な調査結果として、下記のチャートに示すよう、「表情・見出しなみ」から「心遣い」に至る患者応対評価はすべての項目で極めて低い評価でした。

図1 調査結果レーダーチャート

表1 調査結果サマリー

【改善策】

当調査結果は、客観的な評価として第3者機関から提示されたこともあり、スタッフも素直に評価を受け止めることができたようです。
コンサルティング会社の支援のもと、患者に誠実に対応するという理念を院内スタッフ全員で再認識することができ、その理念を具体的に行動化するための行動基準の作成にもこぎつけました。
行動基準の作成に当たっては、スタッフも交えてミーティングすることにより、全スタッフにとって納得感のあるものに仕上げることができたようです。

行動基準の運用面では、その基準に合致する行動は認められ、その行動基準に反する行動があった場合は、できていないことをできるだけその日のうちに院長から伝えるようにしました。こうした一貫した取り組みを続けたことによって、院長への信頼感が育まれました。また、当クリニックの仕事がどうあるべきかを行動基準の作成と振り返りを通して再確認できたことによって、スタッフは本来の患者に誠実でありたい気持ちを日頃の仕事で表現できるようになりました。

一方、Aに関しては、長年のキャリアがあって能力が高く、さらに人を巻き込む素質があるので、辞めさせたり冷遇するのではなく、ポジティブな形で再度クリニックの中心的存在として巻き込んでいく方針を取ることにしました。

先のミーティングの後、院長先生は二人で話し合いの機会を持ちました。今までの感情を捨て、Aを頼りにしていること、スタッフのマネジメントや患者さんの接遇など、運営に関わることについては自分の相談に乗ってほしいことを伝えました。Aは自分の能力が院長に認められたことを嬉しく感じ、心を入れ替えることになりました。院長からの信頼感はAの仕事に対する肯定的なモチベーションとなったようです。

Aの話し上手なところは他のスタッフとの良好なコミュニケーションに活きました。スタッフをうまくまとめ、Aは右腕として院長を支える存在になっていきました。そしてクリニックの患者応対の品質や雰囲気も良くなり、患者数も順調に増加するようになったのです。

【理論編】目標達成能力と集団維持能力を兼ね備えるには

今回は院長先生が現場の問題に合わせたリーダーシップを発揮することにより解決された事例です。
リーダーに必要なリーダーシップとは、ある目的を達成するための行動を引き出す能力のことです。多くの研究者が様々なリーダーシップ論を提唱していますが、ここではリーダーのパフォーマンス能力(PerformanceのP)と集団維持能力(MaintenanceのM)の頭文字をとったPM理論で知られるリーダーシップ論をご紹介します。

【PM理論でリーダーの機能を理解する】

「PM理論」は1966年に社会心理学者三隅二不二氏が提唱し、基本的なリーダーの機能をシンプルに整理したものです。

三隅によると、リーダーシップとは、
P:Performance「目標達成能力」と
M:Maintenance「集団維持能力」の2つの要素で構成されるとしています。

目標設定や計画立案、メンバーを率いて目標を達成する能力(P)と、人間関係を良好に保ち、集団を維持する能力(M)の2つの能力の大小で定義しています。

今回の院長先生の場合、目標達成(P)、集団維持(M)のどちらのリーダーシップも発揮できていませんでした(左下のpm領域)。リーダー格のAとの溝が、スタッフ全員とのコミュニケーション不足につながり、スタッフとの仕事上の目標も共有できていませんでした。またそれにより、スタッフ全員との人間関係も不十分なものとなっていたのです。

【目標達成能力(P)を高めるにはメンバーの受容が必要】

事例の院長先生は、P機能向上を前提として行動基準を設けました。ただし、それだけにとどまらず、院内ミーティング等のコミュニケーションを活発に行う場を設けました。また、その中で目標とする行動基準についてスタッフ議論し、できなかった場合はそのままにせずに、きちんと伝え続けることで、課題達成へと導く行動を起こしました。

目標達成能力(P)の向上の秘訣は、そのリーダーシップがメンバーによって受容されることにあります。一般的にリーダーシップとは、リーダーによる一方的な働きかけのことを指すと考えられがちですが、たとえリーダーがいくら優れた言動を発しても、受け手のメンバーが納得して行動に移さなければ意味がありません。
目標達成能力(P)を高めるためには、メンバーがリーダーの考え方をどのくらい納得して受容したかで、目標達成に対する積極性や自主性に影響を与えます。つまり、メンバーの受容の度合いを意識しながら指示を与えることが必要になってきます。メンバーに対する主体的な支援を通じ、メンバーの信頼を得られれば、目標達成に向けて主体的に協力してもらえる状況を作り出せるのです。

【クリニックは集団維持能力(M)が重要】

医院の方針に対するメンバーの受容を促す上でのポイントとして、集団維持に関わるリーダーシップスタイルに目を向ける事をお勧めします。
人間関係を良好なものに保つ集団維持能力は、比較的小規模であるクリニックでは不可欠です。これなくして、メンバーが目標を受容し、目標達成に継続して取り組むことができる望ましいチームとはなりえません。
加えて、部下の苦情や不満は人間関係中心の行動不足から生まれます。この人間関係中心の行動が不足していると、Aのようなスタッフが生まれる場合があるのです。人間関係を中心とした行動をとっている管理者は、仕事を中心とした管理者よりも、部下からの苦情が少ないという調査結果もあるようです。

医院の方針に対するメンバーの受容を促す人間関係中心のリーダーシップを発揮するポイントとして、後述する集団維持能力(図:リーダーシップM行動(集団維持能力))のチェックリストを参考にしてください。

【振り返りのポイント】
PMテストを参考にご自身のリーダーシップ行動を振り返ってみてください。

吉田、三隅ら(1995)より一部改変

PM理論のリーダーシップタイプは、リーダーの行動によって変化することを前提としています。スタッフとコミュニケーションを取る際にはテストの10項目を意識してください。PとM二つの機能を兼ね備えると、生産性が向上し、スタッフの満足感やモチベーションが高まると思います。

以上

筆者プロフィール

榊原 陽子

写真

株式会社 マザーリーフ代表取締役 社会保険労務士

全日本空輸の客室乗務員を経て2002年に社会保険労務士として開業し、2006年、ホスピタリティ産業(医療・介護・保育・観光等)向けスタッフ教育事業などを手掛ける株式会社マザーリーフを設立した。覆面調査「サロン・ド・クリニック」は、一流の接客スキルを身につけた客室乗務員経験者が施設を調査・診断するコンサルティングサービス。スタッフの就業満足度、サービスの品質向上への冷静かつ的確な助言は多くの支持を得ている。