MBA流クリニック経営

第12回:「自院に必要なリーダーシップを見出す上での組織診断の活用例」

株式会社 マザーリーフ 代表取締役
榊原 陽子

リーダーはスタッフの特徴や組織の状況によって、リーダーシップスタイルを変えていくことが望ましいと思われます。今回は、どのようなリーダーシップが望ましいのかを判断していく上での参考として、職場の人間関係の状態やスタッフの気持ちから組織の状態を把握する、組織診断の活用事例を解説します。

本稿で学ぶポイント

  • どのように組織の状態を理解すればよいのか組織診断の事例からポイントを知る
  • 組織の状態に応じてどのようなリーダーシップやアクションをすればよいかを学ぶ

【ケース編】リーダーシップの機能不全に陥った院長の話

【クリニックの背景】

その院長は、3年前に急逝した父が開業した整形外科を引き継いだ2代目でした。その整形外科は名古屋市のベッドタウンにあるまだ田畑の多い地域でしたが、町役場からすぐのところにありました。
先代の院長は温厚で、柔和な人柄であったため、先代のファンとしてこのクリニックに通う患者さんが多くいました。一方で、常連患者が中心で新規の患者さんがほとんどない事から、将来、患者さんの転居や転院等とともに来院患者数の減少が危惧されていました。

現在の院長はその危機意識より、新しいクリニックに生まれ変わる必要があると考えていました。現院長は野心的で熱血タイプで、先代とはまったく違う気質の持ち主でした。
クリニックを開けばおのずと患者が集まるといった父の代の環境とは異なり、これからの整形外科は、リハビリテーションの強化や地域との連携が集患上不可欠であり、そのためには接遇が重要という認識のもと、接遇日本一を目指してクリニックの経営方針を思い切って変更しました。

【問題点】

しかし、院長の思いとはうらはらに、接遇の重要性について日々スタッフに訴えても響かず、スタッフの意識の向上は感じられませんでした。特に父の代からいる古参看護師と事務員は熱く語れば語るほど、冷めた目線で反応し、全く言うことを聞く気配がありません。やがて、院長の一方的な思いはスタッフとの溝を作る事になり、古参看護師だけでなく他のスタッフも院長への態度がよそよそしくなってしまいました。特に、古参看護師は院長に対して不信感を持ち、組織に大きな不満を持つようになったのです。

このような問題に直面し、院長はコンサルティング会社の支援を依頼しました。コンサルティング会社は組織診断と、その結果に基づくチームの改善を提案し、その取り組みを進めました。
組織診断の結果からは、スタッフ全員と院長の気持ちがかけ離れ、対立状態であることがわかりました(図1)。スタッフは自らの存在価値を十分感じる事ができず、また、どのような行動が正しいのかがあいまいな組織の中で不安を抱えている状態でした。

図1 組織診断結果の概要図

組織診断結果の概要図

◆当組織診断の診断軸

 縦軸「存在感」 スタッフが自分の存在を認めてもらうことによる充実した感情
 横軸「不安感」 職場の秩序が整っていないことによるスタッフの不安の感情

当組織診断の診断軸

【改善策】

従来の経営方針に長年親しんだスタッフが多く、そのスタッフの意識改革を行うようなケースでは、それに合わせた院長のリーダーシップを発揮することが重要です。

院長は、まず古参看護師から不満を聞く事で意思疎通を図り、関係修復と信頼関係の再構築に取り組みました。古参看護師は、先代の院長には娘のように可愛がってもらい、診察まわりのことは一任され、他のスタッフの前でも立ててもらっていたようでした。それが現院長になってからは、ほかのスタッフと同じ扱いになり、今までうまくやっていたやり方を頭ごなしに変えさせられたことが存在を否定された感につながったようです。
現院長は古参看護師のそのような立ち位置について配慮せずに接してきたこと、説明なしにスローガンを推し進めていたことについて反省し謝りました。古参看護師も院長に本音を理解してもらえたことがきっかけとなり、二人は信頼関係を再構築できました。

二人の関係修復は、スタッフ全員が院長と志を一つにしてまとまる上で大きな前進となりました。特に、院長からだけではなく、この古参看護師からも、接遇日本一を目指すことについてスタッフを集めて話してもらったことは組織がまとまる上で大きな効果があったようです。

結果として、スタッフ全員で、接遇日本一を実現するためにはどのようなことをすべきかを、具体的に細分化して文字に落とし込むワークを行う事ができました。また、その作業をスタッフ全員で行うことで、院長の掲げる接遇日本一を目指すことがクリニックやスタッフ、患者さんにどんなメリットがあるか、その意味や目的を皆で共有しました。
さらには、接遇日本一に向けて自分たちが毎日実施することを10個ピックアップし、毎日できたかどうかの評価を行い、改善を進めていきました。たとえば、「スタッフ同士でも挨拶は笑顔で明るく相手の目を見て行う」「患者さんやスタッフの悪口や噂話はしない」など、ごく基本的なことです。

【成果】
改善後、スタッフがプロットされた位置

これらの取り組みは功をなし、スタッフはどんどん明るく元気になり、丁寧で思いやりのある対応ができるようになっていきました。
古参看護師も、組織の方針やその中での自身の役割が明確になった今、接遇日本一というスローガンに率先して取り組めるようになりました。
院長はこれまで、自分がメンバーを引っ張り上げることだけがリーダーシップだと考えていました。しかし、部下の感情に配慮したり、目標をスタッフ自らの手で具体的な行動に落とし込み、スタッフが自立的に仕事に取り組めるような環境づくりが、当クリニックにとってはより重要であることに気づいたのです。

【理論編】組織の状態に応じたリーダーシップの取り方とは

とるべきリーダーシップの形は、組織やスタッフの状態よって異なります。今回は組織診断を用いてスタッフや組織が置かれている状況を分類し、それぞれの組織の状態に応じたリーダーシップの在り方について解説します。

【組織診断】

本事例で紹介する組織診断は、スタッフの職場に対する気持ちから組織の状態を把握する方法です。この組織診断はスタッフがアンケートに答えることにより、スタッフの状態を二つの軸で評価します。

再掲:当組織診断の診断軸
 1軸「存在感」(自分の存在を認めてもらうことによる充実した感情)
 2軸「不安感」(職場の秩序が整っていないことによる不安の感情)

当組織診断の診断軸

それから、この2軸の評価を元に、スタッフを「満足群」「配慮群」「承認群」「成長群」の4つに分類し、スタッフがどの分類に多くプロットされているかによって組織を評価します(図2)。その結果により、職場のリーダーが組織の現状を改善するためのヒントを得ることが可能となります。

図2 スタッフの分類

スタッフの分類

満足群:仕事に誇りを持ち、意欲的

承認群:認めてもらえないために自分に自信がもてない

配慮群:自分に自信があるが、人とうまくかみ合わず浮いている

成長群:職場に適応できずにつらい気持ちでいる

【それぞれの職場タイプにおけるリーダーの在り方】

当マトリックス上にどのように従業員がプロットされるかにより、そのクリニックに求められるリーダーシップのあり方のヒントを得られます。一般的に不安感はルールや規律を徹底すると弱くなり、存在感は職場のコミュニケーションが多く、自尊心が満たされているときに上昇します。

以下、よく見られるパターン別のリーダーシップのあり方のポイントをご紹介します。

【パターン1:満足群と承認群のスタッフが多い】
パターン1:満足群と承認群のスタッフが多い

医療機関の多くの組織がこの型に当てはまる傾向があります。成果を挙げる一部のスタッフとそうでないスタッフが組織に混在している状態です。

一部のスタッフが求められる成果は出しているものの、仕事を楽しめない、あるいは前向きな状態となっていないスタッフが存在する状況です。この職場のリーダーには、業務の成果やプロセスに意識が向いており、メンバーの気持ちや心情に配慮することが十分でないケースがよくみられます。
このような場合、リーダーは“チーム全体として成果を上げる”という思考よりも“自分が引っ張ることで成果を上げる”という思考となり、自分が主役となってしまっている可能性も高いです。そうした時には、「経営は回っているものの、スタッフが自発的に仕事をしない限り、長期的な成長は難しい」ということを理解し、メンバー一人ひとりと対話の時間を持って、現状の課題や目標達成に向けたコミュニケーションの時間をとることが必要です(話し合うことより聞くことが大切です)。そして、メンバー一人ひとりに権限を委譲し、活躍の場を与え、必要に応じて支援するという意識の転換と役割を実践することが重要です。

【パターン2:配慮群と満足群のスタッフが多い】
パターン2:配慮群と満足群のスタッフが多い

スタッフは和気あいあいと働いていますが、目標や成果が出ておらず、経営者にとっては困る状況です。スタッフは成果を上げるよりも、チームで仲良く仕事をすることに重きを置いて仕事をしている可能性が高いです。
このチームのリーダーは、チームに対してビジョンを提示したり、目標達成に向けてプレッシャーを与えることが苦手であり、どちらかといえば人の気持ちや感情に配慮するタイプのため、意図的にリーダーシップを発揮する場面を作る必要があります。
具体的には、チームのミッションと具体的な目標を示し、スタッフに対する明確な役割付与を行い、最終的にはスタッフ同士でお互いがより良い仕事に照らし合わせて現状の課題をフィードバックできるような仕組みを作ることです。
リーダーのマネジメント上のポイントは、一人ひとりの役割を明確にし、目標達成できなかった場合に、達成できないことをきちんと部下に伝える事です。時には厳しく言わなければならないケースもあるでしょう。リーダー自身が自分の感情をコントロールすることが重要です。

【パターン3:満足群のスタッフが多い】
パターン3:満足群のスタッフが多い

目標達成や課題への取り組みも実現できており、メンバーにやる気が満ちている状況です。このような職場は、個人個人が目標達成に向けて積極的な姿勢をとることができるとともに、メンバー同士が互いに協働して成果を上げています。
このタイプのリーダーは、メンバーにうまく権限を委譲し、必要に応じて支援を行うリーダーシップをとっていることが多いです。さらに成果を上げるチームのリーダーになるためには、現状に満足せず、また、自身の経験値だけに限らず、他のリーダーの行動を学び・取り入れるなどしてさらなる発展を目指していってください。

【パターン4:成長群のスタッフが多い】
パターン4:成長群のスタッフが多い

スタッフは自分の存在意義を十分に感じておらず、また、組織の目指す方向性、それに伴いどのような行動が望ましいのかが明確に理解できていない状態です。チームとして機能していない状態だといえます。
このような場合、リーダーは業務にも人にも十分関心を向けていないケースが多いようです。
リーダーはコミュニケーションの基盤を作ることに焦点を当てることが必要です。ここでのポイントは仕事の成果よりも“笑顔が出る”“挨拶・声かけが飛び交う”職場を作ることです。名前で呼ぶ、院長先生から挨拶をする、必ずお礼を言う、など当たり前ことですが、ちょっとした配慮の積み重ねで格段にコミュニケーションが良くなり、スタッフは存在感を感じる事ができ、組織の一員として積極的に望ましい行動を見出し、チームに貢献していくものです。

【振り返りのポイント】
タイプ1:満足群と承認群のスタッフが多い
メンバーの話をよく聞き、適性や能力を見極め、仕事を任せてみましょう。
タイプ2:配慮群と満足群のスタッフが多い
言うべきことを部下に言うために、時には感情をコントロールしましょう。
タイプ3:満足群のスタッフが多い
更なる発展のため、他のリーダーの行動を取り入れてみましょう。
タイプ4:成長群のスタッフが多い
挨拶する、お礼を言うなど基本的な声掛けから始め、コミュニケーションの基盤を築きましょう。
組織診断結果の概要図
改善後、スタッフがプロットされた位置
スタッフの分類
パターン1:満足群と承認群のスタッフが多い
パターン2:配慮群と満足群のスタッフが多い
パターン3:満足群のスタッフが多い
パターン4:成長群のスタッフが多い

以上

筆者プロフィール

榊原 陽子

写真

株式会社 マザーリーフ代表取締役 社会保険労務士

全日本空輸の客室乗務員を経て2002年に社会保険労務士として開業し、2006年、ホスピタリティ産業(医療・介護・保育・観光等)向けスタッフ教育事業などを手掛ける株式会社マザーリーフを設立した。覆面調査「サロン・ド・クリニック」は、一流の接客スキルを身につけた客室乗務員経験者が施設を調査・診断するコンサルティングサービス。スタッフの就業満足度、サービスの品質向上への冷静かつ的確な助言は多くの支持を得ている。