MBA流クリニック経営

第13回:「すぐできる!費用ゼロ!クリニックの増収増益につながる業務改善」
~費用をかけずに、待ち時間ゼロ、増収増益を達成したクリニック改善事例
より~

株式会社FMCA 代表取締役
藤井 昌弘

長時間診療待ちの患者さんの姿を見て、解消したいと一番強く思うのは、現場で患者応対にあたるクリニックのスタッフではないでしょうか。また、患者さんの待ち時間問題は放置しておくとクリニックの経営に悪影響を及ぼす可能性もある重要な経営課題です。
このような時は、スタッフに業務改善にむけて自主的に取り組んでもらうことが解決への近道です。今回は待ち時間対策を題材に、スタッフの自主性を引き出すポイントについて解説します。

本稿で学ぶポイント

  • 業務改善をスタッフが自主的に行うように促すマネジメントのポイントを知る。
  • どのようなメカニズムでスタッフが自主的に問題に対処するのかスタッフの心理を知る。

【ケース編】待ち時間対策をきっかけに、業務改善の好循環に乗ったクリニック

【クリニックの背景】

5年前に駅前に開業した内科クリニックがあります。患者の多くは生活習慣病の患者で、立地の良さと、内分泌疾患の専門医による診察と検査・当日説明が評判で、近隣にも競合院が無いことにより、開業以降順調に患者数を伸ばしました。ただし、院長先生の頭を悩ます問題が一つ、それは待ち時間の長さで、この問題が来院患者数の頭打ちと新患数の伸び悩みにつながり、収益の停滞に直面していました。

【問題点】

当クリニックは9時の診察開始で、診察予約は取っておらず、来院した順で診察を行っていました。来院の早い患者さんは8時前にはクリニックの玄関前で待っている状態で、月曜日や休日前などの混雑する曜日は待ち時間が2時間程度になることもありました。「待ち時間が長い」と患者からクレームが度々聞かれるようになり、対応にあたるスタッフの心理的な負担も大きなものでした。
また、待ち時間の問題は、スタッフの心理的負担にとどまらず、クリニックの収益にもマイナスの影響を与えていました。
開院前に早く来て待っている患者さんの安全面を考慮し、スタッフが交代で早出勤務をして対応に当たっており、早出手当の支給が人件費の増加を招いていました。加えて、一日の中でも患者数が多い時間帯と少ない時間帯があり、スタッフの勤務シフトは患者数が多い部分に焦点を当てて決めざるを得ず、患者が少ない時間帯はスタッフが余っている状態でした。さらに、待合室に患者が多く待っている時間帯に、初診患者が来院すると、待ち時間が長そうだと判断され、他院へ患者が行ってしまう事もたびたび見かけるようになり、新患の流出にも繋がっていたのです。

【改善策】

待ち時間の解消に打つ手を見いだすべく院長先生はコンサルタントに相談しました。
そもそも待ち時間が長くなる原因は、短時間にドクターに患者が集中してしまうことにあり、待ち時間を短縮するには予約制を導入するしかないとアドバイスされました。予約制によって患者の偏りを解消し、来院患者の平準化を目指すことで待ち時間の短縮につながるというものです。
院長先生は予約制を導入したい旨をスタッフに説明しました。患者さんのクレームの最前線に立たされていたスタッフからは、「是非進めましょう」という声が聞かれました。
一方、予約システムを導入するには時間や費用がかかるため、ツールに頼らず自分たちにできることから始める事にしました。
また、院長は、当問題の解決に取り組む上で、スタッフに過度な負担がかからない、取り組みやすい方法でないと多忙なスタッフが取り組む事は難しいと考え、スタッフからアイディアを出してもらい、スタッフ主導で取り組みを進めることにしました。
具体的にスタッフから出たアイディアは以下のようなものでした。

  1. ①予約制を開始する旨をクリニック内に掲示し、患者に広報する
  2. ②予約ノートを作成し、診察終了時に患者の次回診察の予約を決める
  3. ③予約カードを作成し、裏面に予約日時を記入し、患者に渡す

また、これらのアイディア自体は特別なものではありませんでしたが、スタッフ発のアイディアだったため、直ちに実行に移されました。さらに、スタッフ自ら工夫を重ね、予約対象患者を再診患者のみから、初診患者にも拡大しました。初診患者の予約は、電話で予約してもらうことを基本とし、直接来院した初診患者の場合は当日の予約を取って一度帰宅してもらい、予約時間に再度来院してもらうことにしました。その際に簡単に症状などを聞き取り、そのサマリをまとめて院長に伝えることで、診察の効率化にも役に立たせました。

【成果】

予約制を導入して約1か月後には、来院患者(クリニック内滞留患者)が平準化しました。さらに3か月後には、診察開始前に順番待ちをする患者がほぼ皆無になり、混雑する曜日でも患者待ち時間は、平均20分程度と大幅な短縮に成功しました。
結果として、患者さんから待ち時間のクレームもなくなり、また、新患の流出も防止できた事から、月平均の患者数も増加しました。
経営コストの面でも来院患者が平準化したことにより、早出勤務の必要がなくなり、シフトの偏りをなくし、人件費削減にもつながりました。
当クリニックは待ち時間問題を解消することで、スタッフの人件費の削減のみならず患者増による収益増も実現し、クリニックの増収増益を達成しました。

今回の取り組みについて、院長先生からは指示はほとんど行わず、変わりに、コンサルタントの指導の元、院長はファシリテーションを行う事に徹しました。
スタッフの自主性に任せ、アイディア出し(ブレーンストーミング)、整理、計画、実行まで全てスタッフだけで行いました。スタッフは今回の成功体験により、待ち時間対策にとどまらず、自主的な業務改善に次々に取り組んでいるようです。
当クリニックの成功事例の大きなポイントは、クリニック経営の根幹にかかわる重要な問題を、一切コストをかけず、スタッフの自主性に任せてスピーディに解決した事にあります。高価な予約管理システムを導入したり、新たにスタッフを増員することなく、既存のスタッフが自立的に成果を挙げた事例は、待ち時間対策に限らず様々なクリニックの課題解決の参考になるのではないでしょうか。

【理論編】スタッフに自主的に動いてもらうためには、課題解決によって自身にもメリットをもたらすことを理解させること

今回の待ち時間対策が成功した大きな要因は、現場視点での改善案が次々と出され、それらをスタッフがスピーディに実践したことにあります。その背景には、スタッフが指示されて行動するのではなく、自分たちの自主性に任されて取り組んだ事がポイントとして挙げられます。
指示命令に基づく改善活動では、改善する業務は経営者から見える部分、改善方法は経営者のアイディアに大きくゆだねられます。その結果、改善できる範囲も限定され、また、改善のスピードも具体的な指示が出ない限りは実践されない事となり、改善のスピードも制限されてしまうものです。
加えて、スタッフにとって自らの活動のメリットをダイレクトに実感できたことも更にその活動を促していく上で大きなポイントになったと思われます。
スタッフは早出が無くなり、また、患者さんから「待ち時間が短くなった」と感謝の言葉をもらったり、患者さんを待たせているというプレッシャーから解放され、気持ちが楽になったりなど、スタッフは自らの活動への評価や達成感を実感しました。このような体験をすると「もっと成功体験を経験したい」という欲求が生まれてきます。そしてこの要求がうまく循環していくと、やがて自分たちのメリットがある無しに関わらず、スタッフが自主的に業務改善を継続させる動機が引き出されます。

本稿理論編では、以上のようなスタッフの自主的な取り組みを促す上で知っておくとよいスタッフの心理として、動機付け理論と動機付けノウハウとしてのファシリテーションについて深堀してみたいと思います。

【自主性を引き出すスタッフの心理;内発的動機付け】

事例で起きたスタッフの自主的な行動は、米国の臨床心理学者のハーズバーグによって「内発的動機付け」と呼ばれています。内発的な動機は例えば、職員が自らの意思で主体的に目標を立て、目的に向かって行動を起こさせることを指します。
一方で内発的動機付けに相対するものとして、金銭的な報酬等、インセンティブを動機の主要因とする外発的動機付けがあります。
ハーズバークは「内発的動機づけ」を引き出すためには、以下に挙げる動機づけ要因にアプローチしなくてはならないと述べています。ハーズバーグの研究では、モチベーションが高まった、仕事に満足したという「動機づけ要因」としては、次のものが多数を占めるとしています。

【内発的動機付けを促す動機付け要因】
  • 達成感
  • 他者からの承認・評価
  • 仕事そのものへの満足感
  • 責任
  • 昇進
  • 進歩
  • 個人的な成長

一方、モチベーションが低下・上がらない動機付けとしては、組織の方針管理、監督、労働条件などで、上からの指示や報酬などでは人は動きにくいとしています。

内発的動機を喚起し、動機づけ要因に訴えかける以下のようなマネジメントが望ましいとしています。以下の要因を理解いただき、スタッフへの働きかけを行ってみてください。

【内発的動機付けを高めるマネジメント上のポイント】
  • 権限を委譲し、挑戦させてみる
  • 細かな指示や命令は控える
  • 期待する役割を示し、チームにとって必要な存在であることを理解させる
  • 目標の達成感を味あわせ、成功を分かち合う
  • やればできるという自信を持たせる
  • 成功には称賛の声をかける
【内発的動機付けを更に後押しする目標設定方法】

また、米国の経営学者・心理学者のビクター・ブルームによると、以下3つの要素を掛け合わせたものほど、モチベーションが高まるとしています。目標が魅力的ではなかったり、目標までの道程が遠いとモチベーションが上がらないのは読者の方にも実体験があると思います。

【目標に対する認知を深め、達成への道筋を明確にしてモチベーションを高める】

 目標・結果の魅力 × 到達までの道筋 × 実現の可能性 = モチベーション

組織の目標を個人のレベルに落とし込んだ場合、人によって目標に対する捉え方は様々です。目標を達成するメリットをよく理解してもらい、各人の目標に対する魅力を高めるよう説明に努めてみてください。
事例では、目標を達成することによって得られるメリットをスタッフ自身が良く理解していたことに加え、予約制の導入という大きな制度変更について、最初は再診患者のみ、次に初診患者に広げてといった具合に、目標を小さく設定し、徐々に適用範囲を拡大したことで、スムーズに最終目的達成につながっています。

【内発的動機付けを高めるファシリテーション】

ファシリテーションとは、スタッフの自発的行動を促すコミュニケーションノウハウの事です。会議では、話の流れを整理したり、参加者の認識の一致を確認したりする行為で、合意形成や相互理解をサポートすることを主な役割とします。日頃のコミュニケ―ションでは、問題提起、問題解決のためのリソースやスタッフが望む支援の提供、成功への承認等、スタッフのサポート役に徹します。
当事例で、院長はファシリテーターに徹し、細かな指示はせず、一切をスタッフに任せました。そのコミュニケーションの中で、院長は、個々のスタッフに期待する役割を明示し、すべてを信頼して任せるよう心がけました。院長には、陰ながら、本当にそこまで任せて大丈夫かという不安もあり、また、自分としてこれをやってほしいというような事もあったようですが、コンサルタントと話し合いながら、その点はぐっとこらえて、スタッフを信頼して取り組みを見守りました。
また、スタッフが取り組むべき目標は、大きすぎず小さすぎず、比較的短期間で達成できるレベルの目標に落とし込むよう、院長から促しました。それを受け、スタッフは「患者の待ち時間をゼロにする」という大きな目標を定めはするものの、いつまでに予約カードや院内広報資料を整備する、などの小さな目標にブレークダウンしました。その効果は大きく、目標の進捗がわかりやすい、目標自体達成しやすい、そして達成を実感しやすいというメリットがありました。院長自身も、細やかな称賛を心掛け、スタッフを鼓舞しました。

【振り返りのポイント】

クリニックの問題解決に向けて、職員のモチベーションを引き出すために、次の4つを意識してください。

職員に問題改善のメリットを理解してもらうようにする。
職員の自主性に任せ、院長先生の関与は最小限とする。
最終目標を明確にした後、到達しやすい小さな目標設定を行い、達成までの道筋が明確になるよう支援する。
目標の達成のサポーターに徹して、細やかに称賛を心掛ける。

以上

寄稿者プロフィール

藤井 昌弘

写真

株式会社FMCA 代表取締役

受託臨床検査会社を経て、病院の運営改善や業務改善など大型プロジェクトにかかわる。医療機関に出向、原価計算の導入による経営改善、地域医療連携室の立ち上げ等を担当する。厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年、株式会社FMCAを設立し、代表取締役に就任。
医療・介護分野、行政、医療経営等に幅広い見識を持つ。