MBA流クリニック経営

第14回:「大量のレセプト請求漏れが発覚!その後1か月でリカバリーした秘策」

株式会社FMCA 代表取締役
藤井 昌弘

クリニックの医療事務スタッフが、カルテを正確に読み取りレセプト請求を漏れや不備なく実施する事は、クリニックの収入に直接的な影響のある重要な問題です。
本稿では、レセプト請求漏れを改善する医療事務スタッフの育成方法をご紹介します。

本稿で学ぶポイント

  • レセプト請求漏れを低減する医療事務スタッフのスキルアップ方法を知る

【ケース編】大量のレセプト請求漏れが発覚したにも関わらず1か月程度で問題を解決。

【クリニックの背景】

駅前に開業した整形外科の事例です。当クリニックは、開業時に事務職員が中々集まらず、採用活動に苦労をしましたが、医療事務の予備校でのリクルート活動やハローワークの求人広告等により、専門学校新卒2名、ベテラン1名の3名体制で開院にこぎつけました。
開院後1年ほどが経過した時点では、ドクターの人柄も良く、患者さんの評判も上々で患者数は順調に増えました。リハビリ施設を併設していることも相乗効果として患者さんの増加に繋がり、クリニックの立ち上がりは順風満帆に思われました。
しかし、収益については患者数増に見合う増収はなく、微増にとどまっていたことに院長が不信に思い、コンサルタントに相談したところから、本事例で紹介するレセプト請求漏れの問題が発覚したのです。

【問題点】

コンサルタントは、その原因は算定漏れ、つまりレセプト作成能力に原因がありそうだと考え、その点を指摘しました。新卒の2名は、レセプト作業には不慣れで、知識も不足しています。その2名の力不足をベテランの1名がカバーしていましたが、この職員も5年ほど専業主婦だったため、ブランクがあり、最新の診療報酬点数の情報に疎いところや、レセコンに使い慣れないところがありました。それらを元に推測するとスタッフのスキル不足による算定漏れが多分にあるのではと推測されました。
速やかに、レセプトの請求漏れ、算定漏れがあるのかどうかはっきりさせなければいけません。しかし、クリニックの体制上、時間のない院長には簡単に手に負える問題ではなく、患者をよく紹介する地域医療支援病院の地域医療連携室の医事課担当者に、院長から相談を持ちかけることにしました。
日頃から院長先生は当地域医療支援病院との関係を良好に保っていたこともあり、早速、その病院の医事課職員が、クリニックのレセプトを確認してくれることになりました。
結果は、当初の想定通りレセプトの算定漏れが相当額発見されました。

ミスの原因は、整形外科におけるレセプト業務に関するスタッフの知識不足であることは明らかでした。

【改善策】

クリニックの経営面から考えても早急に3名のレセプト請求能力を向上させる必要がありました。
ただし、3名のスタッフのモチベーションやプライドなどはできるだけ考慮してコミュニケーションを行いました。レセプトの検証にあたった医事課職員からは、検証結果について丁寧に直接スタッフに説明してもらいました。院長からは、知識の低さはなるべく指摘せず、これまで十分な研修受講の機会等がない事を問題点として挙げ、その改善策をスタッフと一緒に考えることにしました。その結果、レセプトに関する様々な勉強会や研修等に積極的に参加する事をスタッフと一緒に決めました。当初、スタッフは時間外業務となり得る事もあり、気乗りがしない点もあったようですが、レセプト作成はクリニック経営にとって非常に重要な作業であるということを話し合い、交通費や時間外手当ても支給することで、時間外の勉強会も積極的に参加してもらう事になりました。

その結果、スタッフは前述の地域医療支援病院の医事課のレセプト関連の勉強会に参加する事をはじめ、いくつかの勉強会や研修に参加しました。新卒2名に関しては、出身専門学校にレセプト作成スキルについて特別に補習をしてもらいました。それから、スタッフが個々に勉強してきた内容、間違いやすい内容は、共通管理するファイルを用意し、3名の間で必ず情報共有をしました。

また、日常業務においてもミスが発生しないようオペレーションの見直しを図りました。まず一つに、レセプト作成時に疑問点があった場合、先の地域医療支援病院の医事課に問い合わせ、回答を得るような関係を構築しました。
それから、レセプト作成時には、保険証の記入ミス等の基本的なミスをなくすため、そして、算定誤りや病名漏れ等を減らすためのダブルチェックを徹底しました。

【成果】

地域医療支援病院の医事課のサポートもあり、当クリニックでは、請求漏れが発覚した月からすぐにレセプト請求額が約15%アップしました。さらにその翌月は、ほぼ独力で精度の高いレセプトが作成できるまでに至りました。

【理論編】レセプト請求能力向上のステップを理解する。

当クリニックの成功要因は、何をおいても地域連携支援病院から協力を得られた事にあります。自院だけの力ではここまでスピーディに問題解決を図るのは非常に難しい事だと思われます。

ここからは、どのクリニックでも実践可能なレセプト請求能力を向上させる方法について解説していきます。能力向上のポイントは4つあり、①地域の医療機関との関係性の構築、②スタッフへの教育、③院内の日常業務の定期的な見直し、④スタッフとのコミュニケーションが挙げられます。

①地域の医療機関との関係性の構築

近年の地域包括ケアの進展の下、地域の医療機関と顔の見える関係性を作るというのは言い古された感のあるテーマですが、自院の問題解決に関して具体的なアドバイスをいつでも得られる程度の関係は構築しておきたいものです。

■地域との関係性を良好に保つポイント
  • 地域の集まりや勉強会には積極的に参加する
  • 患者紹介を頂いている医療機関と定期連絡会などを利用して交流を図る
  • 地域医療機関や介護施設の他職種向けに勉強会等を開く
②スタッフへの教育

院内全体のレセプト請求能力を向上させるためには、スタッフへの教育は不可欠です。当事例でも実践した、スタッフのレセプト請求スキルの向上を実現するスタッフ教育のポイントとして、以下をご紹介します。

スタッフのレセプトスキル向上ステップ

ステップ1 スタッフの知識補完が必要な分野を特定

第3者によるレビュー、あるいは、同じ患者のレセプトを、複数のスタッフが各々レセプトを作成し内容の不一致点を確認することで、スタッフそれぞれがどの部分の知識を補完する必要があるのかを特定できます。これはスタッフにとって何を学ばなければならないかの具体的な目標にもなりますので、重要なステップです。

ステップ2 学習機会の提供とスタッフ同士が知識を補完し合う体制の構築

ミスが発生している分野の知識強化の機会を設けます。スタッフが知識の補完ができるよう積極的に勉強会や研修への参加を促しましょう。本事例にあるよう、他施設の勉強会への参加はスタッフ間の交流の機会にもなり、スタッフにとって大きな励みなると思われます。
また、スタッフ同士がそれぞれ学んだ事や間違いやすいポイントなどを補完し合える仕組みの構築が重要です。仕組みづくりをする上で活用できるのが、共通ファイルになります。膨大な通り一遍のマニュアルを手間をかけて作成しても、活用する上で便利とは限りません。やはり自院にあった情報、自院に必要な情報をマニュアル化する必要があり、それは日々の業務の中で手間をかけずに行う事がポイントかと思われます。

■マニュアル作成の主なポイント
  • 勉強会などで学んだことを形にこだわらず共有
    勉強会後に、各自が共有することが望ましい情報をファイリングします。特に形にこだわる必要はなく、スタッフ間で学んだ知識を共有する方法であれば何でもよいと思います。勉強会に参加したスタッフが共有ポイントとなるテキストを抜粋しメモを添えて、院内のスタッフ回覧板で回す等簡単な方法でもよいと思われます。
  • 過去の事例から間違いやすいポイントを共有
    過去に発生した請求ミスや減点・返戻についてスタッフ全員が知っておくべき事は共通ファイルに保存しましょう。施設基準に基づく算定違い、傷病名のつけ間違い、時間外・休日加算等の診察料、検査、処方料等、クリニックによって特に間違いやすいポイントは様々だと思われますが、それらをマメに整理しておく事が重要です。
  • 診療報酬の改定による変更点を周知徹底
    直近の診療報酬改定で新設された項目や、項目の再編、あるいは点数及び算定要件等に変更のあったものについて、付箋や色付けをした診療報酬マニュアルを院内で共有することもポイントです。これまで問題なく請求できていたことが突然減点された等という思いがけない減点を防ぐ上でも、診療報酬改定のポイントはスタッフ間でしっかりとキャッチアップしておきたいものです。
③日常業務の定期的な見直し

日常業務を、定期的に振り返りを行い、常に点検、見直しする事も忘れてはなりません。

■日常業務の見直しのポイント
  • レセプトの減点や返戻の数、内容において改善すべき事項がないか
  • 勉強会で学んだ事やミスについてマニュアルに都度可視化されているか
  • ダブルチェックの頻度やタイミングが決められた通り行われているか

以上を定期的に点検することで、スタッフのスキルアップの必要性や改善すべき業務のポイントも理解できると思われます。

④スタッフとのコミュニケーション

スタッフに対して問題をどう伝えるかなど院長のコミュニケーションの取り方も非常に重要です。本事例ではスタッフのスキル不足が課題でしたが、院長が本人の能力不足を指摘しなかった事も、特筆すべきポイントとしてあげておきます。特に同じようなミスが重なると、院長はスタッフを責めたくなってしまうものです。しかし、そうすることで、スタッフは萎縮し、クリニックへの関心を失いやすくなります。結果として、良いクリニックづくりの原動力にはならなくなり、離職しやすい状態になります。たとえスタッフの能力に問題があったとしても、あえてそれをスタッフの責任にせず、自院の体制面に目を向ける事こそ、経営者として望ましい姿勢でしょう。

以上

寄稿者プロフィール

藤井 昌弘

写真

株式会社FMCA 代表取締役

受託臨床検査会社を経て、病院の運営改善や業務改善など大型プロジェクトにかかわる。医療機関に出向、原価計算の導入による経営改善、地域医療連携室の立ち上げ等を担当する。厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年、株式会社FMCAを設立し、代表取締役に就任。
医療・介護分野、行政、医療経営等に幅広い見識を持つ。